第25回の大原社会政策研究会は、東大大学院教育学研究科博士課程の田中麻衣子さんにご報告いただきます。報告のテーマは、「「居場所」概念による実践の構成」です。

田中麻衣子(東京大学大学院教育学研究科博士課程)
「「居場所」概念による実践の構成:規則の語りと当惑経験に着目して」
8月23日(火) 15:20〜
場所 法政大学大原社会問題研究所会議室 アクセス

田中さんには実は別の研究会に参加してもらってご報告してもらったところ、その内容がとてもよかったので、ぜひこちらの研究会でも報告して下さい、ということで、今回の研究会になりました。ここのところ、私が考えなければならないテーマでもあります。近年、子どもの貧困が注目され、最近ではこども食堂の動きなども目立ってきました。そして、にわかに、学校教育と福祉の関係が問い直されることにもなってきたわけです。この「居場所」概念は、そのまさに鍵になるものだと思います。そして、私が何よりも驚いたのは、田中さんがこの「居場所」に関連する研究を本当によく調べていることです。おそらく、皆さんも想像されると思いますが、これだけ広い言葉、ある意味ではバズワードですから、とにかくいろんな領域で研究されています。それをできる限り拾っているんですね。これ、正直、ちょっと若いパワーじゃないと出来ないなという感じがします。

海外のソーシャル・ポリシーのなかでは教育はわりと重要なテーマなんですが、日本の社会政策研究のなかでは必ずしも位置づけられてきませんでした。これがなぜかというのは実はよく分からないところもあります。たとえば、『教育と社会』(小学館)という本が1967年に出版されていますが、これは大河内、氏原一門と社会教育関係の人たちが一緒に研究した成果です。労働市場政策と教育という、90年代に苅谷・菅山・石田で再脚光を浴びるテーマもありますが、籠山京も入っているので、もっと生活に近いテーマも取り扱っています。だから、ある時期までの研究者にはそういう問題意識があったんですよね。

ただ、奇妙な断絶は教育側にもあります。『教育と社会』はほぼ東大関係者(+北大の籠山関係者)に限られますが、この後、教育福祉の分野の先駆的な研究をするのは、社会教育の小川利夫です。ですが、昨今の仁平さんの研究とか、倉石一郎さんの研究とかにもあんまり出てこない。出てこないのは、60年代から同時代の社会福祉研究を取り込みながら、教育福祉を鍛え上げてきた小川先生の研究と、現在の問題意識がうまく接続されないということもあるでしょう。少なくとも、何枚かかみ合わせないと、同じ土俵にならないなという感じはします。

いずれにせよ、子どもの貧困や、もう少し広く言って、子ども、福祉といったところに関心のある方には、面白い報告になると思います。多摩の山奥で申し訳ないのですが、ぜひお運び下さい。研究者ではなくても、こういうテーマに関心があるという方も歓迎しますので、お気軽にいらしてください。

なお、資料の作成上、ryojikaneko@gmail.com までご一報いただけると幸いです。
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POSSE31号、いただきました。いつもありがとうございます。

今回の特集は、同一労働同一賃金、各政党に意見を聞くというのが目玉です。これを読んでいると、与党である自民党と公明党を含め、大きく言っていることが違うという感じはありませんね。正直、民進党より自民党の方が安心して見られる感じがある。ここまで労働問題に理解を示すとなると、組合は本丸の労働運動で、自民党と戦うというのは言いにくくなる。かじ取りの難しいところでしょう。

次は、求人詐欺の問題。求人票の問題は、今野さんが「ブラック企業」を問題にした当初から指摘していて、それこそ固定残業代の話を書かれていたけれども、POSSEはここ最近、この問題に集中していますね。いろいろな座談会も面白いんだけれども、飯田泰之さんが寄稿しているのも面白いです。そして、この飯田さんが指摘している優良企業は規制してもらっても困らないし、むしろ、規制された方が得るところが大きい、というのは重要な視点です。工場法のころから言われている社会政策のクラシカルな話ですが。

教職員の部活問題もいいテーマですね。昨日、たまたま連合のホームページを見ていて、教育改革の提言を見つけました。内容的には、そんなにケチをつけるようなものでもない、というか、連合って銘打ってなければ、どこの誰が書いたか分からないような文書です。ここで引っかかったのは、提言6の「教職員のやりがい・働きがいを高める」というところで、詳しく中を見ていくと、ガバナンスの話なんですよ。しかも、これ全部、実現したら、労働強化になります。ステークホルダーを増やした民主主義というのはそういうものです。もっと、労働問題に絞って、たとえば、労働時間からアプローチしていくというのも一つの手です。そう考えていたところだったので、部活問題は面白い話題でした。ただ、これを簡単に一律規制すればいいのか、というと、そうでもないところが難しいですが。

今回は、ブラック企業、貧困の現場報告は、連載ですからありますけど、全体的には持続的な労使関係をどう構築していくのかというテーマになっています。POSSEが変わってきたのか、社会が変わってきたのか、いずれにせよ、大きい変化です(POSSEが変えた、という部分も大きくあります、もちろん)。数年前だったら、声をあげてもいいんだ!というところだったと思うのですが、声をあげて良くなった!という話がポツポツ出てきていて、こういうことの積み重ねが本当に希望になって行くんだと感じました。
企業史料アーキビストの松崎裕子さんからエリザベス・シェパード,ジェフリー・ヨー『レコード・マネジメント・ハンドブック』日外アソシエーツをいただきました。ありがとうございます。本と一緒に送り状をいただくことはよくありますが、お手紙を別にいただくのはまれです。几帳面に書かれた宛名を見ながら、いかにも松崎さんの丁寧なお人柄が感じられるなあと思いました。

松崎さんのお手紙には、ハンドブックなので全部を読み通さないと理解できないという性格ではないが、訳者序文から第1章までは本書のエッセンスが述べられた部分なので、一読をお勧めしますという趣旨のことが書いてありました。訳者序文にはこの14年も前に出版され、電子的な環境その他が変わったにもかかわらず、この本を翻訳する意義として、原則を共有することが出来るという考えが述べられていました。これは非常に重要なことと思います。

実はこの本が出版されるのは、Facebookを通じて知っていましたが、あんまり手に取るつもりはありませんでした。それは私自身が出来ることが限られていると思っていたというのが第一、現にできることは粛々とやるしかないし、理想的な方法を知っても現実との落差が悲しいだけだと思っていたからです。ただ、実際に手に取ってみて、その考えを改めました。

この本はアーカイブズ関係者以外にも非常に有益であることを強調しておきたいと思います。まず、狭い範囲で言えば、社会科学系の研究者は得るところが大きいと思います。つまり、自分が使うデータとはどういう性格を持っているのか、ということを外形的な部分からの分析が述べられているからです。だから、データセッション的な研究会に関心がある向きにはお勧めだと言えましょう。

そして、何よりこの本は記録管理、アーカイブズ(文書)管理の本です。何らかの記録を体系だって整理するということは、組織である以上、どこでも生じうる必要であり、ということは、組織にかかわる人であれば、この本は実務的に得るところがあります。特に、「第2章レコード・マネジメントのコンテクストを分析する」が重要です。なぜか、文書を整理するためには、その文書がなぜ作成されたのかを理解しないといけません。そうであれば、その文書を作る組織に注目せざるを得ないのです。ですから、第2章は事実上の組織論です。というわけで、経営学、それから、社会学の古いシステム分析なんかに興味がある人にもお勧めできます。

言ってみれば、記録管理は組織の情報処理(あるいは管理)で、まさに組織の命脈です。もちろん、これがあれば、それだけで戦略を立てられるというようなものではありませんが、逆に言えば、使いこなせれば、すごい武器になりうるということです。私としては、企業もそうですが、政党、組合には特にこの本を読んで、組織戦略を考えるきっかけにしてほしいと思います。もちろん、全部を丁寧に読む必要はなくて、さらっと読み流せばいいんですが、実務をやっている人は現場の勘があるでしょうから、それでも響くところは響くはずですし、それで十分です。ただ、そういう刺激を与える本だと思います。

というわけで、おそらくはそんなに売れないだろうと思いますが、広くこの本をお勧めしたいと思います。

最後に、ファイリングは専門職です!と言っておきましょう。

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友人の畠中さんから『地方都市から子どもの貧困をなくす』をいただきました。ありがとうございます。この本は、大原社研の大原社会政策研究会で志賀さんが報告した後の飲み会で意気投合した二人が中心になって、九州宮崎の貧困の実践活動を調査し、その問題点を広く社会に訴えようとした、そういう本です。というか、私、飲み会で畠中さんの隣に座っていて、その前が志賀さんだったんだけど、そんな話してたんだ。歴史的証人(?)になり損ねた感がありますな。仲間の書いたものなので、なんとかバックアップしたいという気持ちは大いにあるんですが、正直、手放しで勧められるかというと、難しいなというのが初読の感想です。

この本でアトラクティブなのはタイトルと事例、それから「プロローグ」「エピローグ」です。それぞれの「想い」が伝わってきます。一般書ですから、アカデミックな価値観だけで、評価する必要はないと思いますので、むしろ、この「想い」の部分がよいということをまず、紹介しておきたいと思います。実践的な活動をするのは、迷いながら進めていくしかないとするならば、この本はあれこれを考える格好の材料であることは間違いないです。それから、パッションがもたらす、熱というか、そういうものが間違いなくこの本にはあります。その意味で、こういう問題を考えている同志がいるという勇気がほしいひとはそれだけで手に取る価値があります。

圧巻はやはり、宮崎で「のびのびフリースペース」をやっている喜多裕二さんの事例編でしょう。とにかく、子どもたちの具体的な事例が紹介されていて、圧巻です。最後に経済的な貧困があろうとなかろうと、心の貧困を抱えているという認識が示され、結論ではとにかく「聴くだけ」の重要性が語られています。喜多さんの二つの章が説得力を持っているのは、もう経験から出た言葉だから、という一点に尽きると思います。ただし、この「心の貧困」が本書全体を貫くキーワードになっているんですが、それがよかったかどうかというと、私ははっきり言って反対ですね。それはこの本が誰をどういう形で説得しようとしているのかということにもかかわるでしょう。

この本では、アカデミシャンたちは貧困をより構造的に掘り下げて理解しようと模索していますが、その結論はより多くの市民(ないし住民)が「子どもの貧困」関心を持って、活動に参加すること、になっています。しかし、そうだとすると、宮崎やその他の地域でもよいですが、何かを始めようとする人たちにそうした多様な情報がどれだけ必要なのか、とりわけ入口時点でどれだけ必要なのかという点では疑問です。そういうことは、活動をしていくなかで、徐々に掘り下げていけばよいのであって、最初からそういう100年かけて解決するような問題に取り組むんだというような意気込みは、かえって多くの人をしり込みさせてしまうのではないかという感じがします。でも、そういう情熱はアカデミシャンとしてというより、彼らの若さなのでしょう。

それから、もう一つ。これが「心の貧困」という概念を中心に掲げることの最大の理由ですが(ほかにもありますが、今回は一つだけ)、「心」の「支援」はしばしば、問題のある人を引き込みます。というか、自分の「心」にも問題があるのに、それをちゃんと見つめずに他人を救おうという行動に出て、その実は自分が救われたい、というタイプの人です。これは今書いたいろいろな部分をちゃんと認識している場合と、無意識の場合があります。そういう人がいると、かえって事態がややこしくなります。もちろん、交流の中で成長していくことはあるので、完全に排除する必要はないですし、実際に来て一緒にやるという段階になったら、受け入れて一緒にやるしかないんですよ。しかし、だからこそ、「心」を前面に打ち出すのはどうかな、と。

このように考えていくと、喜多さんがおっしゃるただ聴けばいいというのもハードルが相当に高い。相手を逸らさずにまっすぐ話を聞くというのは、単なるテクニカルな話法的なものだけではなく、それを受け止める、あるいは必要以上に受け止めない、そういう微妙な覚悟が要求されます。正直、かなりむつかしい。何がむつかしいかというと、どうしても自分の判断を挟んでしまうんですよ。さらに、自分なりの結論を先に出して、解決策を提示したくなる。その衝動に耐えられない場合は、相手の話を途中で遮ることになります。もちろん、テクニカルに話を遮る必要があるときもあるでしょうけれども、多くの場合、それは相手に自分が拒絶されたと感じさせるでしょう。この問題のむつかしいところは、これを自然にできている人もいて、そして、しばしばその人たちは自然にできてるからこそそれが簡単だと思ってしまっているということにあります。ことの性質上、仕方ないんですが。しかも、解決策を提示しなくてはと気負うと、この子どもの貧困のような複雑なケースでは実際には無理なので、自分の無力感を育てることになってしまいます。

そうすると、裾野から広げていくには、昨今の子ども食堂でもいいんですが、場を作って、そこで何気ない他愛ないおしゃべりをするということが重要ではないか、と思います。それは支援者側に焦点を当ててたプランです。つまり、入りやすくするために、ということです。実際には、そういう場さえもしんどいというか鬱陶しい、むしろ、キラキラしている感じが嫌な子たちもいるでしょう。だけど、そういうところで救われる人もいると思います。ただ、そのときに気を付けなくてはいけないのは、解決策は提示できなくても気にする必要はないんだ、ということだけは共有しておくことでしょう。

私、本当は自分がかかわっていない運動、あるいはコミットする可能性がない運動に、提言するのは好きじゃないんですが、ちょっと彼らの情熱に当てられましたね。ただ、アカデミシャンとして参謀的に参加するならば、全体を鳥瞰する戦略と、それを実現するための一つずつの手段は両輪で、考えた方がよいんじゃないかと思います。そうでないならば、そういうもの(分析)は全部投げ捨て、一兵卒としてできることだけをやるしかないと思います。アカデミックな観点から考えて納得できない部分については、将来、研究書が刊行された時点で、しかるべき形でやることにします。
著者の西川さんから『マネジメントに活かす歩合給制の実務』をいただきました。ありがとうございます。

戦時期に家族賃金という形で、固定月給制の導入のブームが作ろうとされたときに、実務家、三機工業の大矢三郎という人が『請取賃金制度』ダイヤモンド社という本を書いて、旧来の請負給だってやり方次第ではいいんだという主張をされたことがあります。大矢は、それこそ上野陽一なんかの日本能率協会系のコンサルタントとも近く、当時の最先端の賃金の議論をよく周知されていました。その当時は今と違ってビジネス書という範疇はないので、大矢賃金論は実務と学術書の中間のような本に仕上がっていました。西川本を読みながら、大矢賃金論を思い出していました。

この本はかなりよいです。人事関係者、労働組合関係者は必携ですね。ポイントは二つ。一つは何よりも実務的な面で分かりやすく論点が提示されています。組合関係者もこれを読んで歩合給への対抗を考える必要があります。加えて、請負や歩合の問題を考える上で示唆深い本であることがあげられるでしょう。

私の本も大分利用していただきました。ありがとうございます。『日本の賃金を歴史から考える』の一つのテーマは、労働を雇用労働からだけ考えるのではなく、請負との対比から考えていくというものがありましたので、まさに私の問題意識を実務的に発展させていただいたと思っています。あの本を書いて、それぞれの現場の問題意識からのコメントをいくつも頂戴して、それだけでもかなり嬉しかったのですが、まさか実務本でまでこのように取り上げていただけるとは思っていませんでした。あの本は具体的な事実もそれなりには書いてありますが、基本は理論的な本です。たぶん、そういう思考方法はアカデミックな研究者の方が慣れていますが、逆に、実務的な詳細はやはり現場の人にはかないません。ですから、こういう形で、お互いの問題意識を深め合うというのは、すごく理想的だなと感じ入りました。

この本を読んでいると、それこそ実務的なかゆいところに手が届く内容になっているのではないかと思います(ただ、私にはその判定能力はないので、あくまで思います、としておきます)。判例も、それほど複雑ではなく、論点にあわせて適切に切り出していると思います。さらっと書きましたが、これは意外と難しい作業で、法律文書に慣れていて、なおかつ実務で人に話すことに慣れていなければ出来ないでしょう。原理的な部分と実務的な部分が併存しているのはいいですね。

私がお勧めしたいのは、歩合給を導入しようという企業や組合の関係者だけではなく、それに反対する立場の方にこそです。じつは私自身も西川さんの言う方向には必ずしも賛成していないのです。ただ、だからこそ、反対の考え方を学ぶ上でも、ぜひ読んで欲しいと思います。

私が問題提起しておきたいのは、能力育成の問題がほとんど触れられていないということで、それと関連する論点ですが、長期的な視点が入ってこないことです。もちろん、大きい流れとして、タイム・スパンが短くなっているというのはその通りですが、人材育成では長期的な視点を入れないわけにはいきません。細かい仕事内容は変動する場合もあるので、変化することもありますが、大まかな人材育成方針は必要です。

歩合というのは、仕事を適切に切り出せる、ということが前提になります。次は、その切り出した仕事間の関係をどう理解するのかということが問題になります。よく言われるように、簡単な仕事を外注すると、若い人を育成するために最初にやらせる仕事がなくなってしまう、というようなことが起こります。ですから、部分最適と全体最適(長期も含めて)のバランスを常に考える必要があります。しかも、この場合の全体最適の方は、正確に測れるようなものではないので、おおよそこの領域は考えておかなきゃならんなというところを押さえた上で、あとは勘でやるしかありません。

ここと関係するのは、西川さんはおそらく、研究に対して敬意を払って勉強なさっているので、衛生分野にもそういう形で接されていると思うのですが、そこの議論の基本は、現在の点の関係なので、長期になると変わってくると思うのです。とくに、気持ちの部分は、アカデミックに切り出すよりも、経験則で語った方が伝わる部分もあるので、もうちょっと大胆にご自分の経験を語られてもよかったのではないかと感じました。

人事関係、組合関係のみなさん、ぜひ一冊、おいておきましょう。