年末に刊行された『日本労働研究雑誌』2015年1月号でアンドルー・ゴードン先生に『日本の賃金を歴史から考える』を書評していただきました(刊行後、3ヶ月経つとWEBでも読めるようになるので、そうしたらリンクを貼りたいと思います)。ありがとうございました。

年末に濱口先生にご紹介いただいていたのですが、最後に研究所に行ったときにバタバタして確認できなかったので、ついつい時間が過ぎてしまいました。ゴードン先生からは温かい言葉と厳しい言葉を両方いただきました。本当にありがたいことです。学術的には、非常にクリティカルな批判なのですが、電車で気軽に読める入門書という本書のコンセプトではそこまで描けなかったというところもあります。

主な批判点は三つです。初めの二つが具体的な話で、最後の一つは大きな話です。

第一に、これは私自身がゴードン先生の『日本労使関係史』で提起した問題がブーメランで返って来たのですが、戦時期以前の政府の役割をもう少し書くべきではなかったのかということです。ゴードン先生は退職積立金法を具体的には指摘されています。第二に、戦時期の制度として、重要事業場労務管理令の意義について触れないのはどうしてかということです。最後の一つは、より労使関係という観点から、このやり取りを書くべきではなかったか、ということです。

具体的な論点については、期せずして、この二つともに冨樫総一さんがなさったお仕事ですね。冨樫さんは金子美雄さんの盟友でもありました。退職積立金法及退職手当法は若き日の冨樫さんが独力で書かれた法律です(沼越正己『退職積立金及退職手当法釈義』有斐閣という本がありますが、このなかで冨樫さんの協力を得たという記述があり、孫田先生がおっしゃるにはこれは当時の役所用語で、実際は冨樫さんが書いたという意味だそうです)。また、重要事業所労務管理令で、職員の給与について大蔵省から厚生省に権限を移管させたのも、同じく彼の力です。冨樫さんは亡くなった後、『冨樫総一』という追悼集が出ています。冨樫さんのことはもう少し触れても良かったかもしれません。冨樫さん本人の「重要事業場労務管理令解説」が近代デジタルライブラリーで読めます。

ただし、なぜ、この二つをオミットしたのかということについては、単純に答えてしまうと、複雑で難しすぎるからということがあります。まず、退職積立金及退職手当法をもし書くのであれば、当然、戦後の失業保険(雇用保険)まで書かなければなりません。本書の弱いところは年金を含む社会保険や社会保障との関係が十分に論じていないことです。テクニカルに言えば、菅沼隆先生の「日本における失業保険の成立過程」を要約すればよかったのですが、私自身が社会保険あるいは社会保障の研究を十分に分かったと言える領域まで達していないということがあります。特に、社会保障との関係をちゃんと描きたかったのですが、それは実力不足でした。それは第8章の生活賃金が困難という話だけしか書いていないこととも関係しています。ただ、これ以外については、私はコンサルタント業務をバックアップしたことこそ、官僚の役割だと思っていたので、そのことはそれなりに書いたつもりです。

二つ目の点、重要事業場労務管理令についてはたしかに触れておく必要があったと思います。私の場合、紡績をフィールドにしていたため、職工の定期昇給というのは明治以来、存在している制度で、とりわけここでの画期ということを意識していませんでした。ただ、ゴードン先生が指摘されている点はおそらく勘違いではないかと思います。「全ての労働者に6ヶ月ごとに最低限の額を引き上げた賃金を支払うことを義務づけた」規定は「重要事業場労務管理令」にもその「施行規則」にも見当たりません。ただし、厚生省労働局「重要事業場労務管理令運用方針」というパンフレットのなかにある「工員昇給内規記載例」というものがあり、そこには類似の規定があります。これはあくまで賃金規則のうちの昇給内規の模範例であって、強制法規ではありません。いずれも近代デジタルライブラリーで確認できます。強制法規は賃金統制からそんなに大きく変わっていなくて、規則変更の届け出先が地方長官から厚生大臣に変わったことくらいです。重要な変化は、職員の給料の所管が大蔵省から厚生省に移管されたことです(45年には全職員が移管されます)。これは戦後の労働基準法などを考える際にも重要です。それから、この法令は労働行政的には労務統制(職安系)と賃金統制の統合という意味もあります。

ですが、それにしてもこの重要事業場労務管理令は触れておくべきでした。これも書かなかったのですが、重要事業場労務管理令を契機に労務監理官が出来、金子美雄さんたちは現場に出て行きます。このときの経験が戦後、コンサル業務をやるのに役に立ったと後に回想されています(というか、このときの指導行政こそコンサルだったと思いますが)。戦後は金子さんのもとに集まった役人、組合、人事、研究者たちは金子学校と呼ばれ、各方面で大きな影響を与えるようになります(これは知っている方はそうだよなと思われたと思います)。

何が複雑で難しいかと言えば、法令の制定の経緯の説明はどうしても堅くなるし、難しくなってしまいます。そういう意味では、私は説明を省いてしまったこともいくつかあります。正直、このレベルでも書きすぎたかなと思ってるくらいです。重要事業場労務管理令までには第一次賃金統制例、賃金臨時措置令、会社経理等統制令、第二次賃金統制令がどのように変わって行ったのか、そして、指導行政としての「賃金形態ニ関スル指導方針」の成立過程まで全部、書かなければなりません。これが学術論文であれば、「戦時賃金統制における賃金制度」を参照の一行で終わるのですが、そういうわけにもいきません。

これは三つ目の点とも関係します。労働側の果たした役割をあまり重視していないというのは、半分くらいその通りで、それは今までの労使関係研究から見れば、十二分に批判されるべき点です。ただし、労使交渉というのはすごく難しく、賃金というテーマでそのやり取りの機微が分かるように書くとなると、かなり具体的な制度をふまえて、交渉の詳細に立ち入って記述せざるを得ません。それはこの入門書ではちょっと難しいのです。実際、富士紡の賃金制度なども丸めて書いてあります。この本、賃金に関する大まかな考え方は割と書いてあるのですが、細かい制度がどうなっているかというのは淡白です。それは個別の賃金制度を理解するのはやはり専門家でないと厳しいという判断です。ですから、労使交渉の部分を諦めたのは、純粋にテクニカルな理由なんです。ただ、意図せざる結果として、労使のせめぎ合いという非常に重要なところが描けなかったというのは痛恨です。正直、ぐうの音も出ません。ごめんなさい。

以下いくつかの細かい点について。

日本の賃金の特殊性については、実は今月20日にWEBで公開される記事のお手伝いをしたので、それが公開されたら、私の考え方を少し整理して、書きたいと思います。

第6章はかえって混乱を招くのではないか、というのは私も実は書いている途中で同意見でした。しかし、内部の意見で残そうという声があり、残しました。結果的には、以前、スクール・ソーシャルワーカーのguriko_さんから好意的な評価をいただき、私も触発されてエントリを書きました。一人でも現場の悩みに活かしてくれる方がいらっしゃったら、それで著者冥利に尽きます。

もう一つ、私は全然、比較経済史に通じていないのですが、そのような褒め言葉をいただきました。これはちゃんと比較的視点を持って今後も研究に精進せよというメッセージだと思って、頑張りたいと思います。

ゴードン先生、改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。
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教育文化協会は年に数回のペースで本を紹介しています。その中で先月、私の本を取り上げていただきました。ありがとうございます。色んな方にコメントをいただきましたが、この書評はまさに眼光紙背に徹すという域までいっていますね。

一番驚いたのは、この部分です。

著者の意図は、日本の賃金の歴史研究を通して現状の問題に対する実践的意識を高め、賃金についての議論を再び活性化させることにある。賃金を取り巻く周辺事項―例えば「被用者の従属制と生活の保障」「請負賃金と生活賃金」など、多様な切り口で検討を加えながら、もう一度賃金の歴史を学び直すことで、これからの労使関係や労務管理の在り方に新たな議論が生まれることを著者は期待する。


これだけ多様な論点を散りばめてあるのに、こんなに的確な切り取り方があるのかと驚きました。「被用者の従属性と生活の保障」というのは、雇用関係の本質を支配・従属関係と捉え、労働法関係でいう指揮・命令権の根底に何があるのかを表しています。その代わりに生活を保障するということが含まれる。この点こそ森建資先生の『雇用関係の生成』以来のテーマで、答えはないけれども、私の雇用関係、労使関係、理解の根幹でもあります。

「請負賃金と生活賃金」とは、賃金の算定基準をどこに置くかで、この二つの区分だと、仕事基準と生活基準という括りがハッキリ分かります。これは現代の問題関心に置き換えると、成果主義賃金か年功賃金かとするのが一般の理解を得られやすいでしょう。しかし、この表現だと、年功賃金とは何かの部分でつまずきます。年功賃金が単純に生活ベースなのか、それ自体が仕事の評価なのか、ということです。要はいろんな要素を混ぜ合わせた総合決定給なので、年功賃金ってどんな議論をするにも、理論的にはあんまりよい例ではないのです。個別の年功賃金がどういう性格を持っているのかということについては、1給与規則などの規定を確認、2運用を直に聞く、3過去の運用の移り変わりを文書と証言で再検証、というプロセスを踏まないと、確定できないのです(こうした緻密な作業こそがかつての労働問題研究の十八番だったわけですが)。

この二つ目の切り出し方は、雇用と請負の二つをどう考えるか、ということにも繋がります。たとえば、応用問題として派遣労働を考えてみると、これはこの二つが組み合わさったものなのですね。派遣先からすれば請負だし、派遣元からすれば雇用。しかし、指揮命令権は(形式はともかく実際は)派遣先というような捻じれがあります。そこで実際の指揮命令関係がどうだったのか、ということが争点になってきたりするわけです。そこに、生活保証(長期ではなく、短期の生活を維持させるという意味で、生活保障ではなく、保証を使っています)をどうするか、という問題が入ってきます。ここの問題は第8章で大分、踏み込んで書いています。

で、なかなか包括的な文献を出せずに申し訳ないんですが、あまり注目されないこの分野、私は大きく二つの系統を頼りにしました。一人は高野剛さんの一連の論文です。高野さんは玉井金五先生のお弟子さんで、家内労働を歴史的に分析されています。そういえば、一度も書いたことがなかったかもしれませんが、じつは同世代の社会政策・労働問題研究者の中では、私が注目している人の一人です。本のなかでは、これって形で紹介していないので、大変申し訳ないのですが、それはあまりにいろいろ読み込み過ぎて、そういう形で紹介するのが難しくなってしまったのです。ごめんなさい。

もう一つは、濱口先生の『労働法政策』。この前、濱口先生とのやりとりで、『新しい労働社会』は応用編総論、『日本の雇用と労働法』が原論だと修正されてしまいましたが、本当に何度も繰り返して読むべきなのは『労働法政策』なんですね。分かりやすく言うと、私の場合、学生にどうやったら分かってもらえるかなと考えるときは新書の方を見直し(て、結構難しくて絶望し)ますが、いろんな物事の原理原則を考え直すには『労働法政策』を読み返します。これこそ網羅性、それから一歩踏み込んだ記述、歴史的経緯が丁寧に描かれています。まあ、場外ホームランの序説(笑)は一回でいいですが。

さて、話を戻して書評の方、

ただ歴史の各段階において、賃金のあり方に重要な意味をもつ労働組合の立ち位置が明確ではないように思われる。この点は労働組合の関係者が自ら考えよ、ということなのであろうか。


という点ですが、これはこの本が私一人のものではなく、連合総研、各産別との共同作業の賜物で「日本の賃金」の姉妹編だということで、原則的には組合については組合の方が書いて、大きい話を私がするという役割分担だったのです。
第7弾です。

①戦前、戦中ブルーカラーの賃金の所轄官庁は厚生省、ホワイトカラーの給与の所轄官庁は大蔵省であり根拠となる法律も賃金統制令と会社経理統制令と別々であったのはなぜか

戦後、というか、現在もそうですが、労働者と管理者という区分があります。これは指揮命令をする側なのか、あるいはされる側なのかという区分です。戦前は、資本(現代で言えば会社の経営)側と労働側という区分で、ホワイトカラーは無条件で経営側と見られました。戦時期は企業の利益までもコントロール(統制)するという発想でしたので、会社経理等統制令で、ホワイトカラーはこちらでカバーされていました。これに対してブルーカラーは従来の厚生省(今の厚生労働省)が所轄であったわけです。ただ、最後の最後で厚生省に全部、移管されます。

②国家資格があるにもかかわらず保育士など低賃金のままであるという問題が解消されていかない原因はなにか

一に支払い能力ですね。二に労働者側の待遇改善の意欲が低いことですね。とくに、ケアと呼ばれるサービスを提供する業種では、お金のことを言うのをタブー視する風潮があり、待遇改善を言いづらい状況があります。第三に、そうした閉塞状況を打破する外圧、たとえば社会がこれを改善しよう動くこと、がまったくないためです。

③日本は大企業より中小企業が多く存在する国であるのに大企業では福利厚生が充実しているのに対して中小企業ではそれが難しいのはなぜか

常識的には大企業の方が体力があるからというのが一つの答えでしょう。ただ、福利厚生制度というのは規模の経済が働くのです。これは保険の原理と同じです。ですから、たくさんの人を雇っている大企業の方が福利厚生制度を整備するインセンティブが高いのです。

④賃金が支払われる方法は現在では日給、月給、時給制のほかにあるのか

コミッションと呼ばれるような歩合制もあります。また、年俸もありますね。ただ、年俸制度でも労働基準法は月ごとに支払うことを義務づけていますから、年に一回や二回という支払い方はアウトです。ただ、この月給制のなかに、いろんな項目(銘柄)があり、それが複雑なんですよ。

⑤上記の質問は職種や業界によってある程度決められているのか

仕事内容に規定される部分もありますから、自然と似たような制度を選ぶということはありますが、基本的には各社ごとにカスタマイズされます。あと、有名な大企業が新しい制度を入れると、業界を超えて、マネするという現象が起こることがあります。

⑥企業の中に会社に対して賃金や賞与金の交渉を行う労働組合はいつごろから存在しているのか

ほとんどは戦後からですが、1910年代後半の争議で労働組合が関与していたものでは、賃金を問題にしているところがありますね。たとえば、京都の奥村電機争議というのもあります。組合は友愛会(その後、総同盟に改称)でした。ただ、改革の際に、労働組合に会社側から諮問するというようなことは戦前はほとんどなかったのではないかと思います。東京製綱などはやっていたかもしれません。

⑦上記の質問は大企業や中小企業のどんな会社にも必ずあるものなのか
⑧上記の質問に対してどんな人間が配属されるのか

上記の質問がどれを指しているのか分からないので、推測で話します。労働組合のない会社もたくさんありますし、ちゃんとした労使協議、団体交渉の機能を利用できるような企業は多分、少数派です。どこにどんな人間が配属されるのかは会社ごと、あるいはその担当部署、個人などによって異なると思いますので、一概には言えないですよ。

⑨米国や欧州などの他の先進国と日本の賃金の支払われ方の違いについて、月給制が多いのかなど

他国についてはよく知りません。アメリカなどは関口先生に聞くといいでしょう。ただ、一般的に他国を見るときは、ブルーカラーとホワイトカラーを別々に考えた方がよいでしょう。日本もある時期までそうでしたが、1950年代くらいからかなり制度的にも近接しました。国もそうですが、細かく見て行くと、企業ごとにも相当違いますよ。

11 日本は未だ終身雇用制の会社が多いと思うが米国や欧州など他国と比べどうなのか

これはもう濱口先生の本を読んで、勉強しましょう。


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さて、第6弾です。

1 日本的賃金というと年功賃金を連想するが、最近では実力主義といったような、勤続年数に関係なく仕事能力に応じて給料を払うところもある。今後どちらの方が浸透していくのだろうか。

気持ちは分かりますが、実際はそういう風に単純に、どちらからどちらということにはなりません。まず、確認ですが、年功賃金といっても、今までの年功賃金にもいくつものパターンがあります。たとえば、戦後の物価上昇への対応としての昇給という性格が強く残っていて、あまり査定によって差をつけるこなかった場合。それから職能資格制度をかなりきっちり運用して、評価制度を厳しく行っている場合などがあります。逆に実力主義や成果主義といっても、実際は職能資格制度をちゃんと入れようみたいな場合もあります。そうなってくると、年功賃金から成果主義(実力主義でもいいですが)へと言っても、A社で年功賃金といっている制度がB社では成果主義だったというようなケースだって大げさに言えばあるんですよ。ですから、ケースをいっぱい見るしかないんですね。

2 賃金制度手法の導入史を考えるうえで重要な、科学的管理法の意味をより明確に理解していきたい。

生産管理の徹底です。品質と数量の管理です。初期の科学的管理法ではここまでです。

3 外国の賃金制度や雇用形態はどのようなものか。日本と類似している点、異なる点は?

外国もいっぱいあるので、一概に言えないですね。また、同様に日本でも業種や職種によって違います。たとえば、保険の外交員さんなんかは昔から歩合制ですから、これは成果主義ですね。とにかく、いろんなパターンがあるんだということを知って下さい。

4 給料や賞与は、あらゆることに影響を受けて変動するが、2014年4月から消費税が上がることは給料にどう影響を及ぼすのだろうか。

今のところ、給与を上げるという風に動いたはずです。少なくとも、今年、春闘でベースアップを認めさせたのは物価上昇と消費税アップが根拠の一つでした。

5 月給日給制度では、有給休暇によって給与を支払う仕組みが制度化されているが、それはアルバイトやパートにも適用されることがあるのか。

非正規労働であろうとも、有給休暇は法律で認められています。もしアルバイトを退職するんであれば、有給分は消化しましょう。そういうのを請求することを経験しておくのはいろんなことが勉強になると思います。ただ、賃金債券の時効は二年間ですから、二年以上前の権利は消滅してしまうかもしれません。たぶん、そういう制度を知らない経営者も多いと思います。

6 バブル崩壊以降の就職氷河期を経験した世代を中心に、賃金はめったに上がらず、サービス残業も当たり前だと考える人が多くいることは問題にすべきだろう。

本当にその通りです。今、労働時間規制はホット・トピックですから、ぜひ真剣に観察していて下さいね。

7 給与明細は複雑であると述べてあるが、将来、自分の給与額がどのようにもらえているのか把握するためにも、給与明細の見方を知っておきたい。

実務的なことに関心がある場合は、専門の資格やそのテキストで勉強すると全体像が見えますね。たとえば、今、パッとAmazonで調べた限りでは、


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といったものがありますね。ただ、こういう本は相性があるので、東京の新宿、池袋、神保町、東京や渋谷の丸善なんかに出かけて、大きな本屋さんで実際の棚を見て、本を選ぶのがいいと思います。丁寧に読む必要はありませんが、その代わり回数を多く、読むようにして下さい。

8 同一価値労働同一賃金という考え方があるが、企業規模や雇用形態の違いによって賃金や労働条件が異なることは当然だという考え方の方が浸透しているのではないか。

同一価値労働同一賃金も思想としては浸透しています。ただ、他方で企業規模や雇用形態の違いによって、違うというのはありますね。とくに雇用形態による違いは重要なトピックスです。本田一成さんが整理された「職場のパートタイマー」というレポートがありますから、これを読んで勉強してみて下さいね。

9 責任あるポストに就くことを嫌って、正社員登用を断る人のニーズに応えるために、短時間正社員のような制度をつくっている企業もあるが、短時間正社員がやらない仕事を埋めるために正社員の負担が大きくなることはないのか。

あります。というか、非正規雇用の拡大の最大の問題点は、その管理業務負担が管理職ではないはずの正社員にまでも及ぶことでしょう。これはよい問題提起です。

ただ、短時間正社員をはじめとした多様な正社員というあり方については、やはり先ほどの本田さんの議論を勉強するとよいでしょう。それから、ワーク・ライフ・バランスの本も抑えておくとよいですね。たとえば、佐藤先生のこういう本もあります。


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10 103万円の壁や130万円の壁があるように、なぜ主婦パートの収入を規制してしまうのか

収入を規制しているわけではありません。それに主婦パートだけを対象にしているわけではありません。お母さんたちだけでなくて、君たちも同じで、それ以上稼げば、扶養家族から外れますよ。これは父親が稼いで家族を養うというモデル家族が想定されていたからです。ただ、今はそもそも共働きでないと食べて行けない、という人が増えて来ているので、この規制は見直しが検討されています。ニュースやhamachanブログ(EU労働政策雑記帳)に注目ですね。


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第5弾は、ちょっと異質ですね。たぶん、自分で考えたいことがあって、それを深めるきっかけに使ってくれたのでしょう。そういう読み方ももちろん、大歓迎です。

・女性の社会進出において、現代では様々な取り組みがなされているが、課題は多々ある。どのような対策をとればよいのか。

女性の社会進出とは具体的に何を指すのか、ということから考えないとダメですね。ただ、就労という意味では昔から女性も働いていたし、ボランティアという意味ではむしろ男性の方が遅れてるし、どこに焦点を置くかじゃないでしょうか。まあ、政策的には優秀な専業主婦を労働市場に引っ張り出したいということでしょうけれども、それを誘導する必要があるかどうかは議論のあるところだと思います。ただ、一生懸命働いて稼ぐ方が損をする今の税制は変えた方がいいと思います。

・高齢化している現代で、今後どのような雇用形態を形成していけばよいか。

ワーク・ライフ・バランスに対応できるように、正社員を多様化せざるを得ないでしょう。これは佐藤博樹先生たちがおっしゃる通りです。今後は会社の中でも中核的な管理者層のなかに、親の介護等のために仕事量をコントロールしなければならない人が出て来ます。そうなったときに、彼らが辞めるのを止めないか、あるいはフルでは働いてもらえなくても、働ける働き方を用意するか、どちらかしかありません。会社にとっては後者の方が得ですから、そうなっていくだろうと思います。

・報酬に結びつかない労働にはどのように対策していかなければならないか。

これは家事労働のことを言っているのか、サービス残業の話をしているのかで全然、答えが違ってくると思います。サービス残業は残業代の取り立てをしっかりする(昨今の傾向とまったく逆ですが)、労働時間規制を徹底させてそもそも残業を減らすという二つの方向でしょうか。もう一つは賃金債券の時効を10年くらいに延長するとよいのではないでしょうか。過渡期には賃金支払いで潰れる会社も出るでしょうね。それも移行期には仕方のないことです。家事労働は家庭のなかのことですから、それぞれのお宅で解決すればいいことじゃないでしょうか、というのが私の意見です。

ボランティアについては考えた方がよいと思いますが、今のところ、どうすべきだという解決方法はありません。ボランティアをやる人は、自分の人生が充実していて、その満ち足りた分を社会に還元したいと考える人と、自分の人生が何か足りないと感じていて、その不足を他者に分けてほしいと考える人がいます。後者の場合、自分でそういう状況にあることを認識できていない、あるいは認識するのが怖くて無意識に理解するのを避けている人も少なくありません。そういう人は合理的な話をするのは困難です。そして、そういう足りない人を利用する悪い人もいます。

解決すべきかどうかで言えば、解決すべきですが、解決できるかどうかで問うと、困難な問題です。自分に出来ないなと判断したら、ちゃんと距離を取りましょう。中途半端な覚悟で飛び込むと、自分も周りも傷つくので、あまりよいことはありません。ここまで言われて、なお飛び込みたい方は止めません。

・なぜ国家資格があるのに、低賃金の職種があるのか。

これは難しい問題ですね。一般的にサービス職というのは、ものづくりに比べて、目に見える形ではないので、どうしても評価が低くなりがちなんですよ。それは国家資格があっても変わらないですね。専門職の問題を考えるときに、労働組合でなければ、業界団体が業界全体の労働条件を上げるという方向が想定されますが、強力なそういう団体もないんでしょうね。また、専門職には自分の仕事が不十分かどうかという基準を自分のなかにもっていて、その基準に満たない、あるいはその基準を満たすことが出来ない環境(たとえば十分な訓練を受けられない)ことに不満を持っても、賃上げに関心が薄い人たちがいるということもあります。あとは先ほども書きましたが、単純に収益システムが確立しておらず、払いたいけど、払えないという状況もあります。それから、ケア労働のように人に奉仕するようなタイプの仕事ですと、人に奉仕するという行為自体が尊いので、金銭を語ることを卑しむ傾向がありますね。

・また、そのような職種を減らすにはどうしたらよいのか。

業界裁定でちゃんとした基準を作ること、さらに、それを社会のなかで認知してもらうことでしょうか。後者はたとえば、保育や介護などの福祉領域であれば、国家からの補助を受けるということも一つでしょう。あとは業界を超えて、他の相場と比較することですね。いずれにせよ、業界団体か、労働組合か、組織をきちんと作ることが大前提です。

・賃金格差の格差を減らすためにはどうしたらよいのか。

格差というのは絶対的に悪いものではありません。社会構造上、差異がある程度、生まれるのも仕方がないことです。ただ、その格差に、正当性があるものなのかどうか、ということは絶えず問い続けなければならない問題です。一にも二にも労働組合が頑張らないとダメですね。労働運動と社会運動がよい意味で連携して行くと、社会全体を良くして行くことが可能になるでしょう。

一番、大事なことは覚悟を決めることです。それがなければ誰も説得できませんし、こういう理想に現実がなっていないのは誰かが悪いせいだという糾弾かこういう理想になったらいいなというお花畑の議論になってしまいます。そういうのは人生の無駄なので避けましょう。なお、お花畑の議論をする人というのは、NPOの関係者や大学の先生も結構います。それから実務家でも自分の専門以外についてはそういうことを言い出す人がいます。こういう人たちは既に長い時間をそういうことに掛けて来た人たちであり、今からその価値観を修正させることはかなり困難ですし、そんなことをする必要もありません。そういう偽物に騙されないようにしましょう。

大学の先生であれば、みんなすごいかと言えば、そんなことはなく、この本に関して言えば、私が見たり、聞いた限りでも、何人かの大学の先生よりも関口ゼミの何人かの方がよほどよく読めていると思いますよ。


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