澤田稔さんと森直人さんとプチ読書会を開くために、『デモクラティック・スクール』を読んでいる。内容ももちろん、面白いのだが、この2世紀の越し方行く末を考えると、なかなか示唆的な部分が多い。

金井延は19世紀末、社会政策の基本理念を、資本主義ではなく、社会主義ではなく、社会改良主義である。この当時の彼が言う社会主義とは、資本主義の否定、所有の否定である。ここでの論点は所有であった。現実に起ったソビエト共産主義や中国共産主義は、分権という意味で民主主義的ではなく、中央統制という性格を強く持ったが、全員参加型の昔の農村社会はメンバーでさえあれば(女性は排除されやすい)、たしかに民主的に参加し得た。農村社会が封建的であるというのは、意思決定プロセス自体は民主的な面も持っており、決定基準にしばしば昔からの慣習が重んじられ、勢い、年輩者の言う事が重きを置くようになったからであろう。技術革新のペースが遅く、大きな変化が乏しい近代以前の農村では、そうした考えは合理的であったし、たまに来る大きな変化である自然災害についても、年輩者の方がノウハウを持っていたということは想像に難くない。もし、そういう古い農村の意思決定プロセスに民主主義との齟齬があるとすれば、事前調整が行われることであり、その過程で個々人の意思が封じ込められることにあろう。ここにおいて対立軸は、戦後日本において言われた、古い封建制と新しい民主主義である。まあ、私は説得の仕方が押さえつけるのではなく、一人一人と膝づめで、納得させるのであれば、古い方がかえってよいのではないかと思わなくもないが。

日本で批判派というと、それは何らかのマルクス主義の影響を受けている人達のことを意味する。しかし、『デモクラティック・スクール』に登場するアメリカの批判派は社会主義ではなく、金井のカテゴリーで言えば、間違いなく社会改良主義に属する。日本で言えば、社民右派である。この本に出てくる実践教育の試みが、社会問題の多くを抱える困難な地域で行われていることは注目に値するだろう。その意味で、社会政策を勉強する我々も学ばなければならない。ただし、非常に意地の悪い言い方をすれば、困難な地域だからこそ、こうした実践が必要となる。こうした実践とは自らの力で、状況を改革して行く能力である。これは方向としては、コンテンツ・ベースから、コンピテンシー・ベースの教育への移行と軌を一にしているようだ。

などとダラダラと考えて来たが、この本の事例が物語っていることは、教員が既存の知識を教えるということではなく、実践的な活動を生徒とともに行うということである。言い換えれば、学校以外でも、企業でも、あらゆる社会組織で同じことが起り得るということである。しかし、これは研究者の研究会や組合の研究会でも結局、同じことではないかとも思う。このやり方はリーダーシップのあり方が、古い「俺について来い」型では困難で、近年、アメリカで注目されているサーバント・リーダーシップの考え方に近い。ただ、今、「俺について来い」型が古いタイプと書いたが、日本の大企業では、かつては血気にはやる若者の空回りするほどのやる気を、うまく微調整して、目的を達成させるようなリーダーシップが珍しくなかった。たとえば、八幡製鉄の技術トップ、湯川正夫を始めとした当時のトップはその例であろう。そうでなければ、君津製鉄所は作れなかったと思う。ただし、これは昔話で、今は「大人(たいじん)」がいなくなってしまった。そして、それを理想とする生き方もなくなってしまった。これは多分、漢学を中心とする東洋哲学の後退とも関係しているような気がする(まったくのあてずっぽう)。

ただ、正義とか、コモン・グッドとか、いかにもキリスト教の国で、それを実践と結びつけなきゃ気が済まないのは、いかにもプラグマティズムの国だよなと思う。この部分は日本ではあまり意味がないだろうと思う。なぜなら、日本ではあまりイデオロギーでガチでぶつかり合うということがないから。昔の右派、左派、あるいはその内部での争い、というのは、イデオロギーとしての対立よりも、人間的な、党派的な対立という側面が強かったのではないか、と思っている。より正確に表現するならば、イデオロギー対立さえも党派的対立が飲み込んでいく、とした方がよいかもしれない。逆に言えば、人間関係的な、つまり、田中角栄的手法で、なんとかなっちゃうんだ。何より、本音と建て前を別に分けているので、建前を一生懸命議論している人たちには、あるいは建前と実践的本音を統合させようとする試みを行っている人達にたいして、なんでそんな面倒なことやるのかという疑問を持ちつつ、面倒で大変だということは分かるし、自分でその試みを理解するまでに至るのも大変だと分かっているからスルーするために、軽蔑とは違うまさに人間関係的な、労いとして「お疲れ様」という一言にその思いが集約されてしまう。
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