もう、あと2週間弱になってしまったので、完全に紹介が出遅れてしまったのですが、新宿の紀伊国屋書店で「『ワードマップ現代現象学』刊行記念フェアいまこそ事象そのものへ!」が開催されています。私もすぐに出かけて行って、ブックレットをもらい、ワードマップその他数冊、買ってみたのですが、このブックフェアは社会福祉系の人たちにとっても、すごく有用だと思うので、ぜひ首都圏にいらっしゃる方は店頭にお出かけになるといいと思います。

といっても、私は現象学がどういうものかまだ十分に理解していないので、その方面からこのブックフェアの価値を語ることは出来ないのですが、それでも行った方がいいと推薦します。その理由は二つです。

一つは、このブックフェアが酒井泰斗さんのプロデュースによるものだということです。酒井さんは幅広い問題を勉強され、そのトピックで誰に書いてもらったらよいものが出来るかという、自己本位、そうここが重要なポイントなんですが、消費者運動として自分が読みたいものを集めています。それでこれだけの人が協力して、書くということは、書き手もその価値を認めているということで、これはプロデュース力以外の何物でもないのです。客観的にどこがどういいか分からないですが、私の勘ではよいと思います。

もう一つは、「ケア」に関する哲学的な、あるいは理論的な考察を深めていく材料がたくさん散りばめられていることです。このブックレットの中にも「ケアと看護」というそのものもあって、なぜ現象学的な考察がこの分野で出てくるのかということが少し分かりました。それ以外にも心理学と密接に発展した行動科学だとか、人間科学だとかは酒井さんがここ数年、調べているところですが、それに関連する問題も出て来ます。「ケア」は時代によってはフロイドの精神分析の影響を受けたり、ロジャーズの来談者中心療法の影響を受けたり、そのときどきの心理療法の影響を受けていたりします。

この論点は意外と労働問題とも深いかかわりがあります。というのも、テイラー(ないしギルブレス夫妻)が始めたと思われている動作時間研究ですが、実際に同時代にこれらの研究を進めたのはアメリカでも日本でも実験心理学研究者です。それは簡単に言えば、心そのものは捕まえられないので、人間の「動作(ないし行動)」を代理指標に研究していたからです。これが心理学が科学化を志向したこととも関わっています。実際、アメリカの人事研究者というのは長く心理学者でしたし、職務分析は今なお、心理職の重要な仕事です。分野的には組織行動論がそういうタイプですね。

心理学は教育学にも大きな影響を与えて来ましたし、教育と労働は近接だし、歴史的にも社会政策では研究されてきました。そういう意味で、ここら辺はとても興味深い分野です。ただ、正直言うと、ここまで読んだ皆さんもなんだか分かったような分かんないなという感じでお付き合いいただいたと思いますが、書いている私もよく分かっていません。心理学のディシプリンと関連諸科学がどうかかわってきたのか、どう理解すればよいのかは、私の中では実にモヤっとしていて、ずっと気にかかっています。これもそのうち、集中的に勉強するかと思っていますが、このブックレットはその時の水先案内人の一人になるはずです。

というわけで、こんな感じの問題関心の文を読んで、フェアに行ってみて、ああ本当だ役立ったなと思った方がいらしたら、ぜひ、どの辺が面白かったのか教えてくださると、私も勉強になり、助かります。ぜひ一度、お運びください。2017年9月末までみたいです。
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第25回の大原社会政策研究会は、東大大学院教育学研究科博士課程の田中麻衣子さんにご報告いただきます。報告のテーマは、「「居場所」概念による実践の構成」です。

田中麻衣子(東京大学大学院教育学研究科博士課程)
「「居場所」概念による実践の構成:規則の語りと当惑経験に着目して」
8月23日(火) 15:20〜
場所 法政大学大原社会問題研究所会議室 アクセス

田中さんには実は別の研究会に参加してもらってご報告してもらったところ、その内容がとてもよかったので、ぜひこちらの研究会でも報告して下さい、ということで、今回の研究会になりました。ここのところ、私が考えなければならないテーマでもあります。近年、子どもの貧困が注目され、最近ではこども食堂の動きなども目立ってきました。そして、にわかに、学校教育と福祉の関係が問い直されることにもなってきたわけです。この「居場所」概念は、そのまさに鍵になるものだと思います。そして、私が何よりも驚いたのは、田中さんがこの「居場所」に関連する研究を本当によく調べていることです。おそらく、皆さんも想像されると思いますが、これだけ広い言葉、ある意味ではバズワードですから、とにかくいろんな領域で研究されています。それをできる限り拾っているんですね。これ、正直、ちょっと若いパワーじゃないと出来ないなという感じがします。

海外のソーシャル・ポリシーのなかでは教育はわりと重要なテーマなんですが、日本の社会政策研究のなかでは必ずしも位置づけられてきませんでした。これがなぜかというのは実はよく分からないところもあります。たとえば、『教育と社会』(小学館)という本が1967年に出版されていますが、これは大河内、氏原一門と社会教育関係の人たちが一緒に研究した成果です。労働市場政策と教育という、90年代に苅谷・菅山・石田で再脚光を浴びるテーマもありますが、籠山京も入っているので、もっと生活に近いテーマも取り扱っています。だから、ある時期までの研究者にはそういう問題意識があったんですよね。

ただ、奇妙な断絶は教育側にもあります。『教育と社会』はほぼ東大関係者(+北大の籠山関係者)に限られますが、この後、教育福祉の分野の先駆的な研究をするのは、社会教育の小川利夫です。ですが、昨今の仁平さんの研究とか、倉石一郎さんの研究とかにもあんまり出てこない。出てこないのは、60年代から同時代の社会福祉研究を取り込みながら、教育福祉を鍛え上げてきた小川先生の研究と、現在の問題意識がうまく接続されないということもあるでしょう。少なくとも、何枚かかみ合わせないと、同じ土俵にならないなという感じはします。

いずれにせよ、子どもの貧困や、もう少し広く言って、子ども、福祉といったところに関心のある方には、面白い報告になると思います。多摩の山奥で申し訳ないのですが、ぜひお運び下さい。研究者ではなくても、こういうテーマに関心があるという方も歓迎しますので、お気軽にいらしてください。

なお、資料の作成上、ryojikaneko@gmail.com までご一報いただけると幸いです。
大原社会政策研究会を開催して早いもので18回を数えるようになりました。今まで2回くらいしか告知してないのですが、若手研究者の交流を図るという研究会はお陰様で順調に回数を重ねて参りました。今回は共立女子大学の寺尾範野さんにご報告いただきます。

日時:2016年1月9日(土) 15時20分~17時20分
報告者:寺尾 範野(共立女子大学 国際学部 専任講師)
報告テーマ:優生学とイギリス福祉国家思想――世紀転換期のニューリベラリズムを題材として
開催場所:法政大学多摩キャンパス EGGDOME 5階 研修室1・2

今回は特に思想史研究者の方をお呼びしての研究会となりました。寺尾さんとは「社会的なもののために」研究会(正式名称は違うかもしれません)に参加したときに、初めてご報告をお伺いして、これはぜひうちのみんなにも聞かせたいと思って、その場でご報告をお願いしたところ、快く引き受けてくださいました。事務局の一人としては普段はなかなか出会うことがない分野の本物の研究者の議論をぜひ味わって欲しいと思ったのでした。この研究会は、多摩の山奥まで訪れて勉強したいという人には誰にでも、門戸を開いていますので、ご関心のある方はぜひご参加ください。ただし、レジュメを用意する関係上、事前に連絡をくださいね。アドレスは左のサイドバーのプロフィール欄に書いてあるので、コピペしてご一報ください(スマホだと、サイドバーが表示されないのでここにもアドレスを書いておきます。ryojikaneko@gmail.comです)。

寺尾さんはイギリスのニューリベラリズム思想を研究なさってきて、今回のご報告もその一環です。寺尾さんからの紹介では「社会権理念と優生思想の緊張を孕んだ共存という観点から、J.A. ホブスンやL.T. ホブハウスのニューリベラリズムの福祉国家思想を再考する」というものだそうです。これだけでも想像が膨らむし、面白そうですよね。社会政策においては優生思想は重要な問題ですから、どんどんいろんな切り口で研究が深まって欲しい分野です。

内容については、あくまで想像になってしまうので、私としては寺尾さんをお招きした理由を少し雑談で書きたいと思います。思想史研究にはいくつかの流儀があると思うのですが、私自身が最初、模範としたのは杉原四郎の書誌学をベースにした思想研究でした。ミルとか、マルクスとかです(例によって、全然覚えてないですが)。とにかく厳密な文献考証を本懐とする書誌学は重要な学問だと思っています。歴史研究とも相性がよいんですよね。

でも、思想研究は、そういう地を這うようなスタイルではなく、ときに飛躍が重要です。その飛躍は自分の内なる問題意識(それは現代の起こっていることから作られる)からやってくる気がします。書誌学的なものを独学でかじってきた私なんかはその思想家自身がどう考えていたのかを追求することを重視しますが、思想研究のなかでは過去の思想家がどこまで考えていたかではなく、その思想家の思想そのものにどういう可能性があるか、要するに継承して思考するというスタイルがあって、寺尾さんはまさにそういう方だなと思ったのです。ホブスンがどう考えていたかではなく、ホブスンの思想にどういう可能性があるのかが探求されます。

この研究会は、書誌学ではないですが、現場を丹念に調査して足で稼ぐ、まさに地を這うスタイルの人が何人もいます。そういう人たちと寺尾さんのような研究者が出会ったら、どんな化学反応が起きるのか、今から本当に楽しみです。
連合総研からDIO302号をお送りいただきました。ありがとうございます。早速、濱口先生にも紹介されていますが、なんともマニアックな日教組からの委託研究に注目されています。何をやっても日教組が政治問題に巻き込まれてしまうというのは、非常に不幸なことでもありますが、どうしてそんなことになってしまうのか、たぶん、誰かがちゃんと解明する必要があるでしょう。問答無用の相手を攻撃、自己主張というプロセスは右を向いても左を向いてもうんざりするものがあります。そうすると、本当に重要な教職員の労働時間問題が隠れてしまうのです。これは教職員を公務員、日教組を自治労や国公連合などに置き換えてもまったく同じことが言えます。

ただ、今回のDIOのなかでは私としてはやはり特集の介護離職問題が重要だと思います。ワーク・ライフ・バランスは出てきたときには子育て支援というところで始まったわけですが、今やフェーズを変えて、介護離職問題に焦点を当てています。この問題を推進してきた佐藤先生も2000年代後半から2010年代に入って大きくかじ取りをしました。介護問題は企業の中核である男性中高年層がターゲットになるから、企業も取り組まざるを得ないということですね。世間に浸透して行くのはもう少し先でしょうか。
連合総研元副所長の龍井さんからの紹介で、現代の理論に寄稿することになり、「組織の持続可能性から賃金を考える」を書きました。結果的に、今のところ、私が賃金問題をどのように捉えているかの見取り図になったような気がします。ただ、書いている本人でさえそう思うのですが、これ、難しすぎやしませんかね。分量が決まっているとは言え、全体的に説明が足りず、少し不親切になっている気がします。

後半部分の地域、社会的サービス(ないし社会福祉サービス)と賃金の関係、それから思想から見た賃金(とくに労働証券の考え方、タイムダラーの考え方)などはこれから掘り下げていかなければならない話題ですね。ただ、震災この方、私は生活は地域にあり、地域のことは地域で決めるべきであると考えていて、それならば、学者はまちづくり関係の研究者(といって、それ自体が学際的ですが)としてしか参加できないのではないかと感じています。もちろん、国家レベルで決めている政策(法律)はあるわけで、それにはそれで関わる必要があるのですが。。。