昨日は奈良から杉田菜穂さんをお招きして、社会問題史研究会でした。報告のテーマは「戦前日本における人口問題と社会政策」で、前著と今度新しく出す本の二つのエッセンスをお話ししていただきました。出席者は原所長、鈴木副所長、榎一江さん、畠中亨さん、一橋の院生二人、私でした。別に非公開にしたわけではなかったのですが、研究所のサーバーが夏休み中、落とされていたので、充分に告知できなかったので、大原のMLだけの告知になってしまいました。ただ、結果的にはそれでも時間が足りなかったので、良かったです。杉田さん、超チャーミングでした。

杉田さんのテーゼは、人口政策が量から質に転換していく過程で、女性+優性+児童を中核にした家族政策が形成され、そこからさらに衛生、教育、保健にも拡張していくというもので、これが社会政策=労働+生活の生活部分に当るというものでした。

研究会の議論自体は原先生の二つの質問から幕開けして、一つ目の質問もマルサス解釈の部分で面白い展開だったのですが、実は僕はあまり議論にならなかった「効率」の方の問題が興味を引きました。それはいわゆる女性問題を提起して行った婦人運動と、家族政策の背後にあった「効率」という思想は原理が異なるのではないか、というものです。これ、すごいクリティカルな問題だと思うんですね。産めよ殖やせよ、どころではなく、女性労働力ってある意味、今でさえ調整弁的に扱われている部分がないわけではないからです。僕はよく言うんですが、1980年代の少子高齢化で労働力人口が減るのが分かってきて女性の労働参加が声高に主張されるけれども、戦後の引揚げの時代には婦人よ家庭に還れと言っていたんだ、そこには節操なんかないんだ、ということなんです。これは大雑把な言い方だけど、ある種の「効率」で見ていくとよく分かる。

女性+優性+児童、衛生、教育、保健という六つのキーワードで戦前の社会政策の骨格をすごく上手に捉えていると思う。僕は人口政策を外しても成立すると言ったら、榎さんから全否定と言われたけれども、それでもこれは画期的なことなんです。杉田さんから雑談で「社会政策の歴史の話をどんな人と議論していますか」と聞かれて「誰も話す人はいないし、これだけ専門分化されてるのに、いろんな分野に横断しているのに、理解できるとも思ってなかった」とお答えしたんですが、本当に議論する人なんていないんですね。裏を返せば、ちゃんと戦前の社会政策の骨格を捉えてる、と僕が戦前から現在に至るまで思った研究者は杉田さんが初めてです。僕もこの図式を見れば、まさに社会政策を捉えていることを具体的な事実で説明できるけれども、自分では考え付かなかった。

面白いのは女性+優性+児童なんですね。これこそ1910年代までの労働政策そのものだった。そして、女性政策の根拠と言えるものが生殖、すなわち優生思想だったんです。そういう意味では、杉田さんは労働政策以外の部分の社会政策を説明しようと考えられてきたんだけど、結果的にはそれも包括する図を発見してしまった。これはすごいことですよ。もう少し、ブラッシュアップする必要はあるとしても。

二冊目が出た時点で、もう一度、大原か、あるいは関東にお呼びしたいと考えています。昨日の議論の感じだと結構、旧理論科研の歴史班の人達とも議論できそうだし、若手を集めたい連合総研にもピッタリ。将来に繋がりそうな研究会で何よりでした。杉田さん、ありがとうございました。
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