岩田正美先生が今年に入ってすごく画期的な本を書かれました。『社会福祉のトポス』有斐閣です。この本はここ数年、私が悩んでいた社会政策の位置づけについてのブレーク・スルーを与えてくれるものだと思って、ここ1週間くらい結構、読んでいました。少しずつメモしておきたいなと思います。

一つ、野口友紀子さんが『社会事業成立史の研究』で提起された社会事業というのは、その範囲が時代によって変遷していくんで、その融通さこそが社会事業の特徴なんだ、というテーゼがあるんですが、岩田先生の白書分析はある意味、このテーゼを政策という限定したスコープから、より一歩踏み込んで、そのメカニズムを明らかにしたと言えるのではないか、と考えています。それは具体的に言うと、「一般化」と「特殊化」という二つのキーワードですね。そうそう、確認しますが、このブログは私のノートなので、詳しい説明とかしません。それぞれの詳しい説明は本を読んで確認してください。

ただ、この「一般化」と「特殊化」の概念整理は新しい二つの領域を切り開いた、という気もしています。一つは、イギリス的に言うと、ソーシャル・ワークないしソーシャル・アドミニストレーションからソーシャル・ポリシー段階に到達した議論で、ソーシャル・ポリシーの形成メカニズムを明らかにしたということです。でも、それは社会福祉全体の中ではやや限定された局面である。もう一つは、実はこの概念は、社会福祉だけではなく、他の分野にも適用可能な、より抽象化すると政策形成のメカニズムを明らかにしたと言えるのではないか。もし、そうであるならば、実は意図せざる結果として最初に設定した社会福祉という枠を飛び越えているのではないか、ということです。このところ、考えてきた不登校児童をどう考えるかはこのロジックは見事に当てはまります。

領域の拡張は、政策以外の分野でも起こりうるのであって、たとえば、私が昔岩田先生から教わったのが日置真世さんで、彼女は障害児問題からより広い問題に事業を広げていった方です。NPO活動や何かでも、ある事業をやっていたら、他の事業に横展開していくということは現象としてはよく見られることで、しばしばそういう成功者には首尾一貫性があります。その首尾一貫したところに社会福祉の明らかにすべき何かがあるのかもしれない、という気もします。ただ、これ、福祉から離れて、企業経営の世界でいえば、多角化という話なんですよね。もちろん、利益優先でやっているわけでないから、いろいろと前提は違います。そこではむしろ「ニード」の方が重要な概念かもしれない。政策におけるメカニズムは、たしかに岩田先生が明らかにした通りなんだけど、もう一方で、社会事業とか、社会福祉とかってより広い方になっていくとこういう事業内在的なメカニズムを別に解明する必要があるのではないか、というのが残された問題としてあるような気がします。

今日の大原社研の公開講演でもお話しされていたんですが、生活の多様性というところにも行きつきます。大原の講演は何号かあとのうちの雑誌に掲載されるそうですので、そちらもみなさん、お楽しみに。「生活」概念はすごく難しいんですよね。そういう場合は、アプローチの仕方を変えるのがいいかもしれない。日置さんが仲間たちと作った『事例でみる生活困窮者』という本があります。これは「生活困難」のいわゆるケース・スタディで、生活困難が複合的なのがよく見えてきます。15の分野「ニート・ひきこもり」「精神疾患」「知的障がい」「発達障がい」「虐待」「多重・過剰債務」「ホームレス」「矯正施設出所者等」「外国人」「性暴力被害」「セクシュアル・マイノリティ」「依存症」「労働」「被災避難者」「介護」から架空の事例が38紹介されているとのこと。というか、私、読んだんですが、今、見当たらないので。日置さんの紹介から引っ張ってきました。この前、たまたま慶応のビジネス・スクールでお話しする機会があったので、そのときも少し話題になったのですが、ケース・スタディってハーバードだともともと判例研究の一つで、知のあり方として大いに注目すべきだと思うんですよね。と、脱線しました。

あと、岩田先生が「事業集合とその変遷」を見るという分析視角を採ること自体が、いわゆる発展段階論を拒否しているわけですが、それは直接、私には関係ないので、省略。この本、1-3章と4-6章の関係がよくわからなくて、岩田先生にも直接、聞いてみたのですが、まだ納得いっていないので、もうしばらく考えたいと思っています。
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