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著者の西川さんから『マネジメントに活かす歩合給制の実務』をいただきました。ありがとうございます。

戦時期に家族賃金という形で、固定月給制の導入のブームが作ろうとされたときに、実務家、三機工業の大矢三郎という人が『請取賃金制度』ダイヤモンド社という本を書いて、旧来の請負給だってやり方次第ではいいんだという主張をされたことがあります。大矢は、それこそ上野陽一なんかの日本能率協会系のコンサルタントとも近く、当時の最先端の賃金の議論をよく周知されていました。その当時は今と違ってビジネス書という範疇はないので、大矢賃金論は実務と学術書の中間のような本に仕上がっていました。西川本を読みながら、大矢賃金論を思い出していました。

この本はかなりよいです。人事関係者、労働組合関係者は必携ですね。ポイントは二つ。一つは何よりも実務的な面で分かりやすく論点が提示されています。組合関係者もこれを読んで歩合給への対抗を考える必要があります。加えて、請負や歩合の問題を考える上で示唆深い本であることがあげられるでしょう。

私の本も大分利用していただきました。ありがとうございます。『日本の賃金を歴史から考える』の一つのテーマは、労働を雇用労働からだけ考えるのではなく、請負との対比から考えていくというものがありましたので、まさに私の問題意識を実務的に発展させていただいたと思っています。あの本を書いて、それぞれの現場の問題意識からのコメントをいくつも頂戴して、それだけでもかなり嬉しかったのですが、まさか実務本でまでこのように取り上げていただけるとは思っていませんでした。あの本は具体的な事実もそれなりには書いてありますが、基本は理論的な本です。たぶん、そういう思考方法はアカデミックな研究者の方が慣れていますが、逆に、実務的な詳細はやはり現場の人にはかないません。ですから、こういう形で、お互いの問題意識を深め合うというのは、すごく理想的だなと感じ入りました。

この本を読んでいると、それこそ実務的なかゆいところに手が届く内容になっているのではないかと思います(ただ、私にはその判定能力はないので、あくまで思います、としておきます)。判例も、それほど複雑ではなく、論点にあわせて適切に切り出していると思います。さらっと書きましたが、これは意外と難しい作業で、法律文書に慣れていて、なおかつ実務で人に話すことに慣れていなければ出来ないでしょう。原理的な部分と実務的な部分が併存しているのはいいですね。

私がお勧めしたいのは、歩合給を導入しようという企業や組合の関係者だけではなく、それに反対する立場の方にこそです。じつは私自身も西川さんの言う方向には必ずしも賛成していないのです。ただ、だからこそ、反対の考え方を学ぶ上でも、ぜひ読んで欲しいと思います。

私が問題提起しておきたいのは、能力育成の問題がほとんど触れられていないということで、それと関連する論点ですが、長期的な視点が入ってこないことです。もちろん、大きい流れとして、タイム・スパンが短くなっているというのはその通りですが、人材育成では長期的な視点を入れないわけにはいきません。細かい仕事内容は変動する場合もあるので、変化することもありますが、大まかな人材育成方針は必要です。

歩合というのは、仕事を適切に切り出せる、ということが前提になります。次は、その切り出した仕事間の関係をどう理解するのかということが問題になります。よく言われるように、簡単な仕事を外注すると、若い人を育成するために最初にやらせる仕事がなくなってしまう、というようなことが起こります。ですから、部分最適と全体最適(長期も含めて)のバランスを常に考える必要があります。しかも、この場合の全体最適の方は、正確に測れるようなものではないので、おおよそこの領域は考えておかなきゃならんなというところを押さえた上で、あとは勘でやるしかありません。

ここと関係するのは、西川さんはおそらく、研究に対して敬意を払って勉強なさっているので、衛生分野にもそういう形で接されていると思うのですが、そこの議論の基本は、現在の点の関係なので、長期になると変わってくると思うのです。とくに、気持ちの部分は、アカデミックに切り出すよりも、経験則で語った方が伝わる部分もあるので、もうちょっと大胆にご自分の経験を語られてもよかったのではないかと感じました。

人事関係、組合関係のみなさん、ぜひ一冊、おいておきましょう。
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『アステイオン』2016年84号をサントリー文化財団からいただきました。ご無沙汰してしてしまっているのに、長く気にかけてくださり、ありがとうございます。

今回の特集は『帝国の崩壊と呪縛』ということで、国家論や国民国家ということに関心のある私としてはとても興味深い内容です。去年、佐藤成基さんの『国家の社会学』の書評を書きましたが、『アステイオン』は歴史ももちろん視野に入れているものの、現在の国際問題のホットトピックを扱うので、勉強になりました。ただ、今後の目玉は30年記念の特別企画でしょう。山﨑正和・苅部直対談に始まり、何人かで分担して書いているアステイオンの歴史はなかなか興味深いです。亡くなられた初代編集長の粕谷一希さん、よい意味でも旧世代の感じの方で、日本の古い教養人の雰囲気を持っていたし、そして、そういう文化をまた創りたかったんだろうなと思います。そういう意味では、晩年、河合栄治郎の本も出されています。そういう思想的な背景なんかを改めて思い出しました。

当時と違って、代々木系は弱くなったと思います。というか、それはかつての代々木系の出版社の出版物を見ても、もう昔のように代々木系とだけでは理解しきれない、多様な本を出さざるを得なくなっている。それを資本主義的な市場原理で説明するのか、より組織内在的な社会主義(を目指す)組織の世代間継承の問題と見るのか、どちらも可能でしょう。逆に言えば、こういう証言を読まないと、よく分かんなくなりますよね。そして、そういう状況は、「帝国の崩壊と呪縛」のうちの、冷戦体制の崩壊とももちろん重なっているんでしょう。

ただ、そうした中で、私が個人的にもっとも、ああそうか、と感心したのは宮武美知子「沖縄の護国神社」ですね。素人の我々からすると、現在の国家神道の問題は、すぐに靖国神社の問題と誤解しがちですが、慰霊ということでは、靖国神社以上に全国津々浦々にある護国神社もあるんですよね(もちろん、それ以外にも地域によって、その地域の神社やお寺に慰霊塔が建てられていることも珍しくありませんし、それだけが独立して建てられていることもあります)。簡単に言えば、時間の経過とともに世代交代が起こり、護国神社は地域化をしているという話で、最後には靖国もここ最近では国家護持ではなく、慰霊に専念する方向に変わっている(先代からの方針)とのこと。今の宮司が徳川康久氏というのも初めて知りました(無知ですみません)。徳川家って実は結構、近代日本でも重要な役割を果たしてますよね。島薗先生の国家神道論もいいけれども、そういうもので勉強している人にはぜひ、こういうのも手を取って欲しいです。それこそ『国家の社会学』とあわせて読書会でもやりたいと思いました。