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数日前、フジテレビの平井文夫解説員が「結果に関係なく、働いた時間で給料をもらえるというのは社会主義じゃないですか?日本は社会主義国だったのか?」という文章を書いている。これにたいして、弁護士の渡辺輝人さんが「戦時中の日本人は、歩合給(成果賃金である)などというものは社会主義の制度であって、月給制により労働者の生活を安定させるべし、と言っていた。社会主義って便利な概念だな。」とつぶやかれた。これに対して、私が出典を聞いたところ、親切にも文献とページ数をご教示いただいた。該当箇所は桐原葆見『戦時労務管理』東洋書館の217-218頁である。

ただ、実際に書かれた文章を読む限り、桐原の認識は渡辺さんの見解とは異なっている。該当箇所を引用しよう。

出来高払賃金は、社会主義的経営を標榜するロシアにおいても、ひろくこれを採用して来たとおりに、多数の人間を機械的に働かせる方法としては必要であるかもしれない。(一部、漢字をかなに、旧字を新字に改めた)

まず、この文章は社会主義全般を論じているものではない。加えて、桐原は「社会主義的経営を標榜するロシアにおいて」と断っているのだから、むしろ社会主義の反対、資本主義側では出来高払賃金が一般的だと思われているけれども、社会主義だと言っているロシアで「さえも」、これを採用しているというニュアンスだろう。すなわち、桐原は賃金制度で社会主義かどうかをアプリオリに決めておらず、むしろ「多数の人間を機械的に働かせる方法」として、経済体制を超えて広く普及していると捉えていると言える。私は読む前に、桐原があまり理解していないのではないかと疑っていたが、桐原は正確に書いていた(桐原さん、ごめんなさい)。この該当箇所の後、渡辺旭のパイロット万年筆社の工員月給制を勧めることになる。

何はともあれ、無事確認することが出来、すっきりした。渡辺さん、ありがとうございます。念のために、書いておくと、これくらいの勘違いは、ツイッターでつぶやく際にはよくあることなので、そんなに大きなことではない。むしろ、丁寧に返答いただいて、見解を確認するまでの作業に至るのは稀で、よいことだと思う(どちらが正しいかはそんな大きな問題ではない)。

ついでながら、せっかくなので平井さんの議論について少し解説しておこう。平井さんの議論は、おそらく1980年代くらいまではわりとよく見られた議論である。その頃、どういうことが言われていたかというと、高度成長と石油危機の脱出において、日本は相対的に先進国の中で成功したと思われていた。その要因は資本主義的な制度ではなく、むしろ、ソ連や中国よりも、官僚を中心とした社会主義的な制度にある、と。

いずれにせよ、経済体制というマクロのシステムと個別ミクロの制度を一緒くたに議論するのは、1910年代から冷戦体制くらいまではよく見られたが、ソ連崩壊からもうすぐ30年というのにいまだこういう議論があるのは驚きである。平井さんの議論は、1社会主義は生産性が低い、2日本は生産性が低い、32は日本が社会主義だからであり、それを改革するのが働き方改革だ!という論理構成になっている。この3の見解が昔よく言われた説で、今ここで解説した話である。

ところで、生産性というのは、アウトプットをインプットで割ることで導かれる指標である。すなわち、インプットが少なければ少ないほど、生産性が高くなるのである。平井さん曰く「ただ、僕もそうだが、要領よくチャッチャと仕事をする人は労働時間は短い」。私なんかは素朴にもうちょっと労働時間を増やして勉強した方がいいんじゃないかと思うが、たしかにそんなことをしたら生産性は下がってしまうのである。

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