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本田一成さんから『オルグ!オルグ!オルグ!』新評論、2018年をいただきました。いつも、ありがとうございます。3月にいただいていたのですが、私が生活の基盤を大阪に移したことなどもあり、いつもは一日あれば、大体、書けるのに、こんなに遅くなってしまいました。この間、何度か本田さんに早く紹介せいと催促されてしまいました(いや、実際はもっと丁寧な表現ですが)。

この本はUAゼンセンの研修資料をもとにされていて、その限りにおいて研究というよりは、教材として書かれたものだと思います。いや、それは別に研究として、この本を見ることが出来ないということではなく、次世代の運動家を育てようという本田さんの意思が基盤にあって、それがロマンを語るというところをさらっと語ることを可能にしています。一般に、研究は素材を生のままで持ってくることはせずに調理するわけですが、素材がどんなに魅力的でも、調理に向かないために、泣く泣く取り扱わないことはあります。本当に大事なことは書かれない、というのは私が尊敬する先生お二人がよくおっしゃっていました。このオルグのロマンというのもそういうものです。

オルグのロマンというのは、言ってみれば、オルグの精神とか魂とか思いとかいろんな言い換えが出来ると思います。言葉は何でもいいんですが、これが分かるか分からないのかで運動家になれるかどうかの分水嶺である、と言っていいと思います。余談ですが、以前、組合の方に労使関係を教えて学生を育ててくださいということを頼まれたことが何度かあったのですが、そもそもそういう感覚は分かる人には分かるし、分からない人には分からないと思っていて、それは教育によって作るというより、そういう資質の人に出会うものだと思っているところがあって、あまり乗り気ではないというのが正直なところでした。そういう点では、教育や研修に期待していません。しかし、本田さんはそうではない。

冒頭でオーラルヒストリーを批判されていますが、私から見たらどうでもいい、つまらないことです。それは調査屋としての本田さんのアイデンティティかもしれませんが、オーラルヒストリーであっても、たとえば岩永理恵さんや田中聡一郎さんたちがやった厚生省官僚のオーラルのようにトピック重視の設計も可能ですし、オーラルと呼ばれる前から、古くからいろんなものがあったわけで、それをひとまとめにすることなどできません。それこそフィールドノートのつけ方だって人それぞれですから。いろんな分野と学際的につきあってきた私の経験では、どの分野もすごい人とダメな人がいるというだけだと思います。特定の研究が念頭にあるのに、それを名指しで批判しないのはよくない。こんな中途半端に書くくらいなら、名指しで批判すればよかったと思います。

さて、本体の話に戻りましょう。この本が何を考察しているのか、ということですが、徹頭徹尾、「組織」です。もちろん、オルグは組織化の意味なので、組織について考えるのは当たり前に思われるかもしれませんが、本田さんの場合、産別、企業別組合のロジックを丁寧により分けて記述し、さらにはその背後にある業界動向、経営者の理念などもさらっと解説しています。そういう意味ではいつもながらに産業史、経営史という点から読んでも面白い。ただ、そこからもう一歩踏み込んで、人に入り込んでいる点がこの本の特徴です。そして、その特徴の由来はやはり対象が労働組合であることから来ます。一般に、組織論は軍隊とか企業とかからスタートしていて、人が人を通じて組織を大きくすること自体を目的としていません。これに対して、組合は組織化自体がしばしば組織目標になります。それは他の組織にない特徴です。

しかし、そうした視点に支えられた個別の分析はそれ自体が優れた成果であるとはいえ、それさえも私にとってはどうでもいいことに思えるのです。なぜ、すぐれたオルグの皆さんは本田さんに語ったのか。それは本田さんが調査屋だったからでしょうか。おそらく、そうではないでしょう。私は本田さんが語るに足る人間であると認められたからだと思っています。

労働運動家というのは労働組合に就職すればなれるようなものではありません。もちろん、その組織に属せば、フォーマルにもインフォーマルにも先輩から影響を受ける機会は間違いなく多くなるでしょう。飲み会で何度も聞いた話にそのエッセンスが込められているかもしれません。しかし、だからといってそこに何年、何十年勤続して、その話を聞いたことがあったからといって、本物の運動家になるのかと問われれば、保証の限りではない。本田さんはゼンセンの人間ではありません。一人の高い研究能力を持った研究者です。しかし、それ以上にオルグのロマンを語り継ぐものです。

昨年、私のお世話になった運動家が亡くなって、その人の書いた論集をまとめるので、緒論を書いてくれという依頼をいただきました。その最後に「労働運動に命をかけた一生は男子の本懐である。その精神が後進の労働運動家に引き継がれることをただ祈りたい」と書きました。追悼の言葉よりも、それこそが本当に伝えたいことだったろうと思って。そうして、偲ぶ会が企画され、その論集もそこで配られました。その会で、皆さんの思い出話を聞くうちに、実際に思いが引き継がれていったその姿を見ることが出来ました。

本田さんは歴史が大事だといいます。そういう言葉を組合の方からうかがったこともあります。でも、私はその当時も今も、歴史が大事だとは思っていません。歴史は現在の理解を深める素材に過ぎません。本当に大事なことは、やはり本田さんの言葉で言えば「オルグのロマン」に通じる何かが伝わるかどうかです。別に組合に限らなくてもいいのです。労働運動の精神と呼ぶべきものが本当に一人でも多くの人に伝わるといいなあと思います。それはきっと分野を超えて他の社会運動にも資するところがあるはずです。
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