先日、有賀喜左衛門著作集が安かったので、5冊ほど手に入れた。読むともなく、パラパラとめくっていたのだが、決定的に重要だと思ったのは、同族団、たとえば商家の同族団などと会社組織の連続性を論じている箇所である。これは著作集Ⅷに所収の「都市社会学の課題」のなかの「都市における家連合」である。

つらつらと思い出したことや調べたことをメモしておこう。このあたりの商家研究では、何と言っても千本暁子先生のご研究が素晴らしい。千本先生は、当時の労資関係研究に対して、主として間先生の社会学的視点を援用しながら、明治初期の商家の雇用研究や紡績における雇用関係の研究をなさった。このあたりを批判的にも継承しているのが最近では粕谷誠先生の三井の研究であろう。だが、粕谷先生も一編、扱わざるを得ないので扱ったという感じで、もともと労働史をメインにされていたわけではない。また、私はあまり最近の三井物産研究をフォローしていないけれども、必ずしもこのような視角は継承されていないような気がする。それは問題関心がむしろ、最近の経営史的視点(ベタな実証主義)にあるからである。高橋さんはちょっと違うが、ここでいう問題関心じゃないのはよく知っているので省略。日本の労働史研究は今、非常に危機にある。簡単に言えば、人手不足である。研究者同士の密な交流はしばしば素晴らしいアイディアを産むが、そもそもいないので、そんなことは望むべくもない。

今、家制度のようなものは流行らない。それはイエがもっていた拘束性が弛んだという大きな時代的な流れも大いに関係あるだろうが、一つは1990年代くらいまでにある程度の水準に達したという側面もあるだろう。ちょっと、ブレイクスルーが難しい状況に入っている。

有賀喜左衛門を調べていたら、有賀・喜多論争というものの存在を知った。本当は現物にあたるべきだが、平野敏政「生活組織と全体的相互給付関係」によれば、有賀の立場は「家は特定の社会的、文化的条件の下にある社会関係の一形態である」のであるから、「社会関係の形態のみを抽象して、それを通文化的に比較するという研究はほとんど意味がない」わけである。これに対し、喜多は一般理論と結び付て理解すること、すなわち「通文化的比較」を重視したらしい。そして、これはもともとの有賀の批判対象である戸田貞三の「家族構成」と近いらしい。戸田貞三といえば、理論よりも実証を重んじた、社会学者として有名であるから、抽象的理論を遊ぶようなことはしないだろう。ということで、おそらく、この論争は決定的に重要な方法論上の二つの立場を鮮明にしたといえるだろう。

私自身は一般理論をそんなに重視しない。一般理論は現実を説明しようとしたときに、多くの場合は、その魅力を失ってしまう。なんでその現実が説明対象なのか?ということを説得的に示すのが難しいのだ。理論の勉強を中心にした人が泥臭い現場の出来事(史実)をリアルに描くのは困難である。なぜ、そうなのかは私にも分からない。

日本の「家」論の一つの到達点は三戸公である。言うまでもなく、批判派経営学の泰斗で、ウェバー研究やフォレットの紹介者でもある。1990年代には『家の論理』を発表した。これは掘り起こされた事実を尊重しながら、自身の理論研究を結び付ようとした名著である。しかし、ここからの発展可能性ということでいうと、展望は難しいだろう。私の知る限りでは、石巻専修大学の晴山先生はそれを受け継ごうとされたが、決定的な新機軸は出されていない。

日本的経営論の代表的論者といえば、他にも津田眞澂先生、間宏先生、松島静雄先生がいらした。津田先生のお仕事はどれもパイオニア的な意義はあるが、今となってはどれも浅いし、これを引き継ぐ人を私は知らない。間先生のお弟子さんはたくさんいらっしゃると思うが、私の知っているのは河西先生である。河西先生は、しかし、家制度を深めていくという方向には進まれていない。松島先生の家制度研究はそのあと、誰か引き継いだのだろうか?

雑談が過ぎた。有賀喜左衛門については以下の三浦直子論文が参考になると思う。後者は三田社会学の有賀喜左衛門特集で、川合隆男先生がオルガナイザーらしい。ということは、社会調査の学説史研究としては第一人者であり、他もいろいろ期待できると思う。関心のある方はCiNiiで検索されたい。

有賀喜左衛門の初期郷土研究:「名子の賦役:小作料の原義」へと至る展開過程(1)
有賀社会学の批判的継承に向けて

ちなみに、このエントリのカテゴリである学際的領域というのはこの場合、経営史、労働史、家族社会学、都市社会学あたりだろうか。

敬称がついていたり、いなかったりするのには、直接会ったことがあったり、心理的な距離であったり、いろんなことに起因するが、特に深い意味はない。
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