年末に濱口さんのブログで紹介されていたとき、意外の感に打たれました。私にとってはまさかあの本田さんがこんな本を書くとはという感じだったからです。私の感想はさておき、ネット上の感想を見てみましょう。正直、厳しいなという印象です。

ここ三ヶ月くらいで面白かった本
一筆書きながら決定的に重要な感想です。「分析は適確」としながら「データがあまりになく牽強付会の感じを与えてしまう」としています。私の印象はまったく逆で、良質な資料を選びながら書いているというものです。ただ、明らかにこれは研究者の良心、あるいは当然の誠実さともいうべき、資料の限界の提示がかえって、普通の方には悪く取られることもあるのだなと感じました。

山下ゆの新書ランキング
本田さんの本はかなり多方面に渡っているため、各方面の詳細が分からないのは否めません。私の場合、勝手に補って読みますけれども、それはまったくのレアケース。たしかに、全部、繋がっているんですが、この方のいうように詰め込みすぎなのかもしれません。ただ、後で述べますように、私は論点は割りと明確だと思います。

読書メモ立ち読み三昧
斜め読みといわれますが、かなり適確に本田さんの議論が普遍性を持つ部分を掬い上げていらっしゃいます。労使関係論はすべての働く現場に応用可能な側面を持っています。

『主婦パート 最大の非正規雇用』
本田さんの議論を丁寧に紹介され、そして、共感されています。

主婦パート 最大の非正規雇用
私はこの方の最後の意見が問題のすべてを言い表していると思います。
でもさー、こういうのって、男性が自分の身に降りかからないと自分たちのこととして認識しないんだよね。非正規雇用のことにしたって、そうだけど。こういうことって、昔から女性の問題として片付けられていたことだからね。

この5つの書評も実は山下さん以外女性が書かれたものです。発売された直後であるにもかかわらず、よい感想が揃っているという印象を受けました。ですが、最初はやはり女性から注目されるのですね。今後は少しずつ、労働問題に関心があって新書を読む読者層に広まるという感じでしょうか。

本田さんはチェーンストア研究から非正規雇用のことを扱われてきた、いわばこの分野では日本の第一人者です。修士時代に法政大学で小池和男先生のもとで修行なさいました(業よりも行の方がピッタリ来ます)。JIL時代はとにかくすごい量の調査数をこなされていたことで広く知られています。また、ヨーロッパの学説も踏まえながらチェーンストアを経営学的に捉える視点もお持ちで(私はまだ『チェーンストアの人材開発』しか読んでませんが)、おそらく経営学と人材開発論を結びつけた発想は一つの強みです。本書は書くべき人が書いた本なのです。

この本のメッセージは大きく分けて二つでしょう。ひとつは、主婦パートを新しい形の正社員として(企業内)内部労働市場のなかできちんと位置づけること、もうひとつはその改革を後押しできるように社会保障制度を改革すること、です。特に第一の課題をクリアする上で、労働組合が果たすべき役割が期待されています。

本田さんは早くからゼンセン同盟(現ゼンセンUI同盟)の非正規組織化に注目されていました。ゼンセンは市ヶ谷に事務所があるんですが、その近くの天狗で一緒に飲んだときに「実はここは全部、ゼンセンにオルグされていて、幹部の人が飲みに来ると、アルバイトまで全員挨拶するんですよ」と伺ったのを思い出します。まだ高木連合会長誕生前夜であったと記憶しています。

この提言の背景にある現状認識についてはやや極端な例を使っています。これは諸刃の剣ですね。具体的な話がないと何が危機なのかイメージが湧かず、分からないけれども、逆に、これって特殊な話でしょ?と思われかねない。主婦パート層が忙しくなり過ぎていることが精神的にも彼女たちを追い詰め、取り返しのない状態を引き起こしかねない、という基本メッセージだけを受け取っておきましょう。

ただ、この本はちょっと一冊では分かりにくい部分があります。残念ながら参考文献には載っていないのですが、久本憲夫『正社員ルネッサンス』中公新書および中村圭介『壁を壊す』第一書林の二冊を読むともう少しテーマを深めて考えることが出来ると思います。中村先生のご本はここでも何度か紹介しました(書評濱口先生の産業民主主義論との関連で)。『正社員ルネッサンス』は随分前に買ってあって積読でした。話題にはなっていたので、多様な正社員という提言自体は知っていました。最後に能力開発に持ってくるのを読むと、久本先生も本田さんも本当に小池先生の正統な継承者という感じがします。ただし、『正社員ルネッサンス』は細かい図表の解読がきついのと、一つ一つの言葉が考え込まれて使われているので、それを追うのもきついかもしれません。とはいえ、本田さんの本と非常に問題意識が共通しており、読むべき一冊です。

本田さんは実は私の大学の先輩です。最近ではお会いすることもなくなりましたが、何年か前は小池先生の研究会でご一緒させていただいていました。天狗のエピソードもそのときの話です。学会で発表されたとき、無理解な質問が飛んできてもいつも笑顔で答えられ、よく見られる子ども染みた論争とは無縁な方です。話を聞いていても一つ一つ、自分の課題をこなしていくという姿勢が印象的でした。まさかこのような警世の書を出されるとは思ってもみませんでした。この本の行間からはしばしば不動明王の如き憤怒を感じます。
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