このエントリは森班長のリプライに対する再リプライです。

1971年中教審答申をどう捉えるかということは、おそらく、一つの岐路でしょう。当初から左派はこれを批判的に見ていたわけですが、森班長のエントリを読むと、私は捩れているのは割と最近のことのような気がします。少なくとも総評系の「民主教育をすすめるための国民連合」は正しく臨教審と四六答申の関係を指摘していたわけです。ということは、1980年代までは正確な理解がなされてきた。90年代前半まで(左派)教育学がそのことを熱心に論じていたということは、わずか10年ちょっとの間で忘れ去られたということでしょうか。しかし、こういうことを踏まえないで議論するというのは、意図してやっているならば、伝統的左派運動への裏切りであり、意図せずにやっているならば、深刻な学力低下と言わざるを得ません。ここにもソ連崩壊以後のマルクス経済学の必要以上の凋落の影響があるんでしょうか。ここ数年、景気が悪かったせいか左派親派的な人も増えている気もするのですが、たとえば乾さんも使っていた賃金論にも黄金ロジックがあるのに、それを使いこなせない。こういうことはいたるところで見られるんじゃないでしょうか。困ったものです。

プリミティブな左派の議論の枠組みは簡単に言えば、戦前天皇制国家と戦後民主主義国家という二元論で、前者は悪、後者は善、自分達はいいもん、ということです。こういう二元論レベルの議論が現実の説明に役に立たないのは今さら言うまでもないんですが、それ自体が現実を作っていることは見逃せません。念のために書いておくと、左派(ないし親派)の優秀な学者は天皇制国家とは何であったかということを理解するために、実証的な研究をするので、天皇制という言葉で何事か説明されたと考えているわけではありません。ちなみに、天皇制という言葉自体がそもそも共産党が造った罵倒語で、それについては谷沢永一先生の考証もありますが、近年では京大の伊藤之雄先生が元の君主制に置き換えて、西洋との比較を視野に入れた堅実な歴史研究を展開されていらっしゃいます。谷沢さんは皇室伝統という言葉を対案として出されましたが、今後の比較史研究の進展を想定すると、学問的には君主制がいいと思います。

気付かれた方もいらっしゃると思いますが、戦前天皇制国家を保守と読み替えると、保守対民主主義になり、それは自民党対左派になるわけです。自民党末期の教育改革時に語られた改革派=自民党=新自由主義、守旧派=自分達=戦後教育改革(民主主義)の実践者という構図は、はっきり言って、自民党・社会党の共犯的55年体制を引きずっているという意味において、自民党同様に耐用年数が切れています。

言うまでもなく、教育基本法をはじめ、戦後の教育行政を作ったのはマルクス主義の左派ではありません。その中心人物の一人は森戸辰男、四六答申のときの中教審会長です。乾さんの本には奇妙なことにまったく森戸先生が出てこない。森戸先生ご自身は、自分は戦前、戦後変わってないけれども、戦前は左といわれ、戦後は右といわれた、というような感想をどこかで残されていたと思います。戦後生まれの左派は別に特別な思いはないでしょうけれども、戦後の転向派(この場合、左派からのではなく、左派への転向です)は、戦前、自分は政府の方針に従っていたにもかかわらず、森戸事件の当事者を批判するのは精神的に苦しいことであったでしょう。もっとも、森戸事件ではあの三宅雪嶺も弁護人になっています。ま、それはどうでもいいですが。

話を戻すと、森戸本人にとっては四六答申は戦後の教育改革の総決算でした。第二の教育改革は占領下であったし、必ずしも十分な時間をかけて行ったとはいえない。そういう部分があったんではないか、と思うのです。そうすると、四六答申は臨調を先取りしたところもあったし、一見、2000年代の教育改革に繋がっていくように見えるけれども、もう一つ別の文脈では、戦後教育改革の真の意味で正統な嫡子であったといえる。その点でもう一つ付け加えておくと、60年代に経済学者の言うことが教育行政に影響力を与え始めたというのは誤りです。なぜなら、森戸こそは経済学者であったからです。ただ、現在の専門化している研究者とは違って、戦前の学者の中には簡単に○○学者とレッテル貼りをしない方がよい人たちがいます。たとえば、高田保馬を社会学者と片付けてよいのか?という問題はあります。森戸さんも同じ。大河内さんもそうですね。というか、戦後の左派だって優秀な学者はマルクスを基盤に持っていたがゆえに、学際的な対話が可能であり、その意味ではホームグラウンドはあっても、おそらく異分野でも一線なんでしょう。乾さんの本が皮肉なことにそのことを証明しているわけです。

大体、どんな論点があるかは分かってきましたが、内容についてはそのうち。てか、論文どころか、一冊の本になりかねない大きさのテーマになってきたような気が・・・。ちなみに、連休中はまとまった時間が取れるので、集中して、別の課題をやります。
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