これは拾い物でした。猪飼聖紀『合理の熱気球』四海書房、1991年です。タイトル通り、日本の科学的管理法を知るためにはこの本に当たるのがよいでしょう。思わぬ収穫に評価がインフレしている可能性はありますが、私の感覚だと佐々木聡、奥田健二、原輝史(編著)、裴富吉、高橋衛、野田信夫といった科学的管理法研究よりもこちらの方が面白い。もちろん、それぞれ立場もあるんですが。

この本は荒木東一郎という民間コンサルタントに光を当て、その生涯を描いたものです。よく勉強して書いてあるし、遺族や元部下などへの取材も相当に綿密にやられたんでしょう。荒木東一郎の名前は日本における科学的管理法の歴史を研究してきた人ならば、名前は知っていると思いますが、上野なんかに比べてあまり注目度が高いとは言えなかったんです。やっぱり上野は産能大学を残しているし、あそこに上野陽一文庫もあります。それに上野陽一については斎藤毅憲の素晴らしい伝記が書かれている。

単純に驚いたのは、東条英機に向って「アメリカと戦争をやっても負けるからそんなこと考えてないだろうな」と確認したり、戦時中は空襲をあまりにも正確に予測したためスパイ容疑で獄中につながれていたにもかかわらず、戦後は山下大将の助命運動をやってマッカーサーを批判し、逆にマッカーサーから認められるなど、とにかくその怪男児ぶりです。

上野と荒木の関係もこの本を読んでスッと入ってきました。実は1930年代の能率技師たちの立ち位置というのは重要だと思うんですが、そこらあたりもよく分かりましたね。ちなみに、研究上、空白地帯になっているのは、荒木東一郎とそれから海軍の波多野貞夫です。波多野も面白い人でご子息が歴史学者で晩年に伝記を執筆する準備をなさっていたそうですが、惜しくも亡くなられてしまいました。ちなみに、波多野精一がお兄さんなんですね。

すみません。すっかり内容の紹介になってない。でも、この分野はこの時代の経営史、労働史を考えたい人には必読ですよ。お姉さんの郁子の話も面白いです。これは女性史的に意味あります(第2章)。

とにかく筆者の筆力には驚かされました。ぜひお勧めです。
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