濱口先生にまたまたリプライをいただきました。ありがとうございます。というか、随分と重要なところまで引き出してきたので、皆さんにもシェアできていただける内容になってきていると思います。これをよく読んでからもう一回、心して『日本の雇用と労働法』を読んでくださいね。

日本の雇用と労働法 (日経文庫)日本の雇用と労働法 (日経文庫)
(2011/09/16)
濱口 桂一郎

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多分、今回もそうですが、別に濱口先生と私の間には、こうやってやり取りする中で、いろんな刺激を受ける方が出てくれば、もうちょっと砕けて言えば「面白いじゃん」と思ってより多くの関心を持ってもらうというのが狙い、というより願いです。

> とりわけ労働法において極めて重要な役割を果たしている判例法理を、必ずしも明示すらされていないそれ自体の内在的なロジックである現実社会のありように沿って解説しているわけではない、と、少なくとも私は感じています。

ここは非常に重要なポイントです。濱口先生自身がこの本と補完的と仰っていた水町『労働法入門』岩波新書の第2章は法源という形でやや詳しく解説してあります。厳密に言うと、水町先生ご自身が書いていらっしゃるように、強行法規によって保障されている就業規則や労働協約を法源として別立てするのはまずいかもしれないですが、運用上はこの強行法規、労働協約、就業規則、労働契約という優先順位は決定的に重要です。本当にここは素晴らしい解説です。

労働法入門 (岩波新書)労働法入門 (岩波新書)
(2011/09/22)
水町 勇一郎

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結論から言うと、法源についての考え方がよく分からないと肝がよく分からないのではないか、ということになります。労働法との関係で、濱口さんが言うように社会学が必要になりますということは、ここの法源という考え方をよく学ぶという意味があります。ですから、もし既に勉強されてきたというわけでなく、労働法について勉強したい方は、水町先生の本を読んでから、濱口先生の本を読むと見えてくると思います。

もう少し言うと、メンバーシップ契約とジョブ契約の対比は、欧米と日本の比較というよりも、判例法理と民法の比較という形で捉えた方がスッキリしたんです。あまりはっきり書きませんでしたが、前から問題だと思っていたのは、たとえば日本のことしか勉強していない人が書くんならいいんです。でも、濱口さんはそうじゃない。EUの労働法政策を専門的に勉強もされ、専門書も出しているし、社会的声価もその点から得られている。そういう人がヨーロッパの現実はこうであるといえば、初学者は信じてしまいますよ。そうして、もちろん、資格社会のドイツのように、現実的にそれを支持する材料も存在します。しかし、従来の枠組みではなく、イノベーティブなことに取り組む人たちはジョブ型では収まりきらない。そんなことは当然、濱口先生は御承知だし、向こうの事情をよく知らない私でも、この分野のアカデミックなトレーニングを受けていれば、論理的に考えてこういうこともあるだろうなという予測を立てられます。私が訓練過程で身につけたのがウェーバーの理念型の発想法です。でも、少なくとも素人の方たちが理念型の発想を常識として身につけているとは期待できない。それはどういうことかというと、批判的に読めないことを意味します。どうなるかといえば、結果的に濱口先生の専門家的権威に乗っかるわけです。だから、そこのところは本当に怖い。

たとえば、こういう風に整理したらどうでしょうか。

1 労働慣行=現実
2 判例法理≒現実?
3 理念型(メンバーシップ契約)≒社会科学的な中間理論(判例法理のさらに背後にあるもの)
 ⇔
4 民法の契約原則=理念として導入されたジョブ契約理念
(労働三法以下は話がまたややこしいので、端折ります)

濱口先生がいう「現実」というのは1から3です。それと対比する形で4があります。濱口先生の本を読むと、おそらく1から3の部分をセットで捉えて4と対比されていることは理解できるでしょう。でも、1から3の抽象レベルが異なっているということはなかなか分からない。だから、もうメンバーシップ契約は理念型という形で、これは現実じゃなくて、理論なんですよということをはっきりさせた方がいい。少なくとも「現実の三段階」のような形でコラムにでもヒントがあった方がよかったと思います。それに2から3への移行は現実を材料とした中間理論の構築ですから、完全に書き手(研究者)の解釈になるので、必然的にこれは学問的に批判されるリスクを負わざるを得ない。リスクと書いたのはそういう意味です。

この区別がないと、ヨーロッパの現実についての先の誤解が生まれかねません。コモンズは労働契約は不断に更新されるということを言っていたと思いますが(すみません、出典は調べていません)、これは彼の地における黙示契約の存在を示唆していると言えるでしょう(追記:コモンズはアメリカです)。

日本についても「メンバーシップだけじゃ切れないよ、ジョブもあるんだよ」ということは、私も前に書きましたし、濱口先生もブログのどこかで書かれていましたが(更新が早いので見逃した方もいらっしゃるでしょう)、キャリアが固定されている層はジョブ型だよということなんです。私が最初の書評(二つ前のエントリ)で次のように書きました。

> それから、判例法理は大企業中心に作られていったという基本認識があります。その点は間違っていない。でも、それって中小企業のことをすっ飛ばしているよね、というところになる(これは『新しい労働社会』が出た時に少し議論したことがあります)。もちろん、それは濱口さんもよく分かっていて、だから、女性労働、非正規労働、中小企業をⅤ章で「周辺と外部」という形で切り分けて、説明している。この切り分け方は前著よりも非常にすっきり理解しやすくなった点です。

この大企業のコア部分とそれ以外の関係は、分かっている人には目次の構成で一目瞭然ですが、皆さんはどうでしたでしょうか?あんまり意識しなかったのではないでしょうか。

とはいえ、ひどい人になると、労働三法(今なら+労働契約法)他、関連の制定法だけ勉強すればいいと誤解してたりするので、民法が大事、判例法が大事という原理原則がなぜそうなのか理解しやすいだけでも、濱口先生の本も水町先生の本も有り難いものです。これは比喩ではなく、本当の意味でのチャート式、たとえば社労士のテキストでは分かんないことです。
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