盟友のマシナリさんがブログに『日本の賃金を歴史から考える』の紹介文を書いて下さいました。ありがとうございます。最初に、

本書を貫くのは「賃金」ではありますが、その算定根拠、決定過程、企業内での実施状況やそれを取り巻く労働運動や経営者側の取組、さらにそれを実効あらしめようとする政府の施策が、主に明治時代以降の近代日本の歴史に沿って描かれていくため、見通しやすく読み進めることができます。もちろん、日本の労務管理がイギリスやアメリカで発展してきた賃金決定の考え方を取り入れてきたという国際的な視野も含まれていて、これだけコンパクトにまとめられた金子先生の業績は、初の単著でありながら「名著」と評されるのも宜なるかなと。


と簡単に特徴をまとめていただいた後に、生活給の歴史に触れられて、74-76頁を引きながら、

社会としての生産性を向上させるためにはその構成員の生産性を上げなければならないというのが社会改良主義で、それは実は生活改良を通じた生活給ともつながっていたわけです。というか、戦前の昭和初期までにはこうした議論に到達していたということにこそ注目すべきで、最近の賃上げをめぐる議論を拝見していると激しい周回遅れ感を感じてしまいます。


とまとめられています。ここはある意味では本書の核心です。ところで、家計調査も最近、組合ではやられなくなったという話もあり、困難な時代になって来ました。ちなみに、この両立をもっともはっきり目指していたのが戦前の総同盟なんですね。関東大震災後の総同盟は共産主義と決別し、現実主義を打ち出してから、はっきりと能率向上に協力を示すようになります。これは世界の組合の中でも先進的だったと言えるでしょう。

次にプロフェッション論のところから、私が経済学の財の希少性だけでは、ソーシャルワーカーや介護士、保育士が高度な技術を持っていながら、低賃金であることを説明できないとしているところを引き、次のようにまとめられています。

賃金が労使交渉だけで決まるわけでありませんし、そもそもその財源をどのように調達するのかというのがいわゆる「パイの大きさ」に大きく左右されることからいえば、公務労働によってまかなわれる介護職や保育士が低賃金に据え置かれていることは、結局社会がその程度の評価しか与えていないということの裏返しでもあります。


これは公務員の立場、すなわち予算の配分という観点からはそうでしょう。ただし、ここには雇主側の「支払能力」の問題と、働き手側の「頑迷なるボランティア精神」で論じた自己犠牲の気持ちという厄介な問題があります。

最後に核心である賃金政策と所得政策に入って行きます。ここは本書の中でももっとも難しいところだったと思うのですが、代替されたのは所得政策と賃金政策というより、たぶん、平均賃金を開発した賃金政策が、春闘を中心とした賃金交渉で機能充足したという風に書いた方が正確でしょう。賃金交渉に任せたがゆえに、支払い能力に帰してしまうの当然の帰結と評価されます。

そして「政府によって所得(現金給付だけではなく現物給付を含みます)を補填する所得再分配政策の必要性が改めて確認できるのではないか」と感想を述べられています。これを書きながら、本書に書き漏らしたけど、そういえば、雇用調整金も賃金政策だよね、と思い出しましたが、ここでのポイントは現物給付でしょう。これは教育バウチャーのようなものではなく、もっと物的なものも含まれると思います。

それにしても、この長文の紹介を、一度、ブラウザがクラッシュして消えてしまった後にもう一回、書いて下さったとのこと。大変だったと思います。本当に頭が下がります。ありがとうございました。
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コメント
こちらからTBも送らずに申し訳ございませんでした。私のやや斜め上を行く感想文程度の駄文を整理していただき、改めてありがとうございました。

私の書くエントリは職業柄どうしても公務員の立場からのものとなってしまいますが、それはそれとして、日本の賃金の決まり方について、公務員だろうと民間だろうと関係なく押さえておくべき歴史的経緯として、本書がまとめられたのは大きな意義があると思います。人事や雇用・労働に関係する知り合いにはできるだけ本書を薦めております。

今後とも、被災地支援ともども勉強させていただければと思います。
2013/12/30(Mon) 12:29 | URL | マシナリ | 【編集
お返事が遅くなってしまい、すみません。明けましておめでとうございます、になってしまいました。本年もよろしくお願い申し上げます。

マシナリさんが公務員の立場から書いて下さるのは、私も勉強になるので、ありがたい限りです。本当はもう少し突っ込んで、公務員のことを書こうと思ったんですが、この程度が限界でした。特に戦後については勉強不足も痛感しました。

また、ゆっくりいつかお話しましょう。
2014/01/04(Sat) 22:56 | URL | 金子良事 | 【編集
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