昨年、賃金の本を出したおかげで、今年の春闘についての記事をいくつか依頼されました。基本的に私は現状がどうなっているかということにあまり興味がなかったのですが、さすがに少しアンテナを張って、世の中の動向を観察しました。春闘について私が主張していることは、1)労使協調で賃金アップ、2)賃金を費用より投資と考えるという視点の転換、の二点です。それは大きくいって、90年代から近年に至るまでの人を使い倒すという流れを反転させなければならない、という思いで言い続けています。

でも、それでは組合はそうした主張をしてこなかったかと問われれば、まったくそんなことありません。連合は昨年も人財投資という言葉で人への投資を訴えていました。ただ、私は数年前、某産別にいったときに感じた違和感を思い出しました。まったく正しいんだけれども、そこで出されていた高付加価値人材のような、なんとも安っぽいコンサルタントのような売り言葉の軽さが頭から離れません。そのとき、その組合は非正規のことをほとんど取り組んでいなかったせいもあり、組合はもうダメなんだなと思ったものです。人財投資という言葉も同じような軽薄さを感じます。私自身は人材育成、人材投資、すべて人材で通します。人事労務管理の雑誌を読んで、素晴らしい先進的な事例だって、人財なんて言葉、使ってませんよ。重要なのは内容です。

そんなことより、今年は非正規の問題解決の声が聞こえて来るのが気になります。今年の春闘については、どれだけ勝ち取れるか分かりませんが、少なくとも現場からは賃上げの声が上がり、むしろ指導層の方が後手に回った感があります。私自身は非正規の格差是正を春闘で実現するのは難しいので、まずは費用よりも投資の側面にスポットライトを当てるべきだという主張をしてきました。でも、非正規の格差是正の声が結構、響いています。その功績はやはり、ブラック企業という言葉を訴えてきた今野君たちにあるのではないかと思います。

しかし、同時に出版物として純粋に考えた場合、ブラック企業ものはほぼバブルの様相を呈してきている、というのが私の実感です。まあ、これだけ現場がひどいことについては、屋上屋を重ねるというか、まあ、ひどい話はいくらでも出て来るでしょう。でも、それだけでは飽きが来るので、なんらかのプラスアルファがないといけない。でも、それは難しいことなんです。もうあと数か月で、このバブルは終わりを迎えるでしょう。この時期によいものも出るでしょう。ただ、盛衰は必ずあるのです(そういう感覚は小西甚一『日本文藝史』で培いました)。

でも、私はそれは決して悪いことだとは思いません。一つはこれが反転の兆しなのではないか、という気がするのです。社会全体がひどい労働条件に気付き、それはいくらなんでもまずいよね、という流れになれば、あとは自然と反転が起こると思います。そうすると、本は売れなくなるかもしれないけれども、事態は好転です。非正規の格差是正はここ10数年来、言われてきたことですが、今年の賃上げのチャンスに、そういうことを主張する産別や組合がいること自体なかなか心強い。それもこうした現象の一環ではないかとも思うのです。


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