NHK第一ラジオの夕方ホットトークに出演して来ました。三週間くらいはネットで音源が聴けますので、御関心のある方はぜひ、聞いてみて下さい。音源はこちらから24日(水)の放送をクリックして、そこから聴けるようです。

私に取ってはあっという間の時間でしたが、放送は15分ありますので、簡単に内容を紹介します。タイトルが「年功賃金を歴史から考える」になっているのですが、放送自体は「賃上げ、中小企業の賃金をどうやってあげるのか?」という内容になっています。これは解説委員の竹田忠さんとそれこそ本番数分前まで打ち合わせをして、今、まさに一番重要なことは何かを議論するなかで、これで行きましょう、ということになったからです。

放送の最初のポイントは政労使会議をどう評価するかです。まず、労使関係というのは、1919年の国際労働機関ILOが創立されて以来、政労使の三者原則が常識であることを述べ、この会議自体がその枠組みで実施されていることを確認しました。したがって政労使が協力すること自体はおかしいことではありません。ただ、日本の場合、1970年代にオイルショックが起こったときに、本来、政府が物価政策で舵取りをせざるを得ないような状況を、労働組合と財界が協力して収めたことがありました。それで政府は物価政策を実施する必要がなくなりました。そういう経緯があるので、労使に相当の自負があるのでしょう。ただ、ここで賃金交渉を実現させたのは歴史的な成果といってよいでしょう。

私が強調したいポイントは、賃金があがったかどうかよりも、賃金交渉を復活させたということなんです。賃金上昇という意味では、名目賃金はあがったかもしれないけれども、実質賃金は下がっている。だから、その評価軸で議論するとあまり生産的ではないんですね。それよりも、10数年、ちゃんとやられてこなかった賃金交渉を復活させたことの意義が大きいのです。なぜか。賃金交渉をやらなかったということは、組合も人事も、その間、賃金交渉に関する人材を育成できなかったということを意味します。今はギリギリのタイミングだった。もう少ししたら、本当にその仕事を分かっている人が引退してしまうところだったのです(2014年の春闘でもOBは動員されていましたが、OBを呼べる前提条件は呼ぶ側に、どういう技能(ノウハウ)をもったOBが必要かということが分かっている必要があります)。

次に本丸の中小企業をどう考えるかです。私はこの問題を三つに分けて考えています。

1 企業(経営者)の意欲
2 企業の体力、支払い能力
3 賃金ノウハウをもった人材不足

私は2と3の問題を重視しています。なぜなら、意欲があっても、体力がなければ払えないし、きちんとした制度運用が出来なければ、上げるということ自体が出来ないからです。

この第二点については当然、誰もが気がつきます。政労使会議では、二年連続で「取引企業の仕入れ価格の見直し」を明文化しています。この文言を入れさせただけでも相当な成果だと思いますが、実際には、手を打てるところはほとんどないと思います。ですから、この問題はスルー。

第三点は、賃金ノウハウの人材の補強です。これは解決の道があります。しかし、政労使会議ではこの部分をピンポイントでは取り上げていません(後でその理由を書きます)。今年の春闘では、労働組合から各地の労働相談センターに賃上げのやり方をどうすればよいかという相談が寄せられたそうです。もともと、労働相談センターは労政事務所ですから、人事の方がデータその他の面でも相談に来ます。ということは、ここが入り口になっているんだから、ここでなんとかすればいい、というのが私のアイディアです。

ただ、労働相談センターはそもそもここ数年でどんどん縮小させられているんですね。だから、まず、ここに人と予算をつけて、これを核にする。とはいっても、お金をつけただけでは人材が急に出来上がる訳ではないですから、そこに、組合や人事のノウハウをもったOBに手伝ってもらう仕組みを作るということです。労働組合も企業も当然、OBの情報は持っていますから、そこは組織力で人を出してもらう。

ここからはラジオで語れなかった現実的なスケジュールの問題を考えたいと思います。春闘といっても一斉回答にこだわる必要はありません。労働組合側にかつての総評のようなスケジュール戦略は失われているからです。そうなってくると、現実的には春にこだわる必要も現時点ではあまりありません(最終的にはここで統一した方が労使ともにメリットがあると思いますが、それはいずれ書くことにしましょう)。それよりも、むしろ、中小企業などでは決算が確定する6月直前まで回答できない(判断できない)ということがあります。しかし、これは現状ではチャンスです。実際、2月くらいまでは労働組合は春闘で手一杯で新しいことなど出来ません。ですから、少しタイムラグがあった方がよいのです。それまでの間に政府が決断すれば、5月あるいは少し遅れて夏でもいいではないですか、ノウハウだけがボトルネックの企業は賃上げは可能です。

私の実感ですが、60代から70代前半くらいまでの方は問題なくできる方も少なくないと思います。と書くと、かつて現役のときに優秀だった方は、ブランクがあるので自信がないと仰ると思いますが、かえってその方が好都合です。そんなにバリバリの状態で入って行くと、教わる側が気後れてしてしまいますから、話を聞いて、一緒に制度を作って行きましょうという方がよいのではないでしょうか。そのプロセスで徐々に勘は戻ってくると思います。

さて、この第三の点について、政労使会議でまったく認識されていないかと言うと、そこは微妙です。一応、中小企業の人材不足ということは樋口先生がおっしゃっていて、それが全体にも反映されています。ただ、政労使会議でのこの問題の扱いを通じて、二つの次元での問題を指摘することが出来ると思います。まず、第一に、人材不足の話がピンポイントに賃上げの原因に結びついていない。具体的な対応をどうすべきかという次元まで降りて行けていないということです。それではなかなか実効を得るのは難しいでしょう。第二に、政労使会議では人材不足の問題を、まち・ひと・しごと創成本部を中核に結びつけてフォローアップしていくという風に合意文書では提言されていますが、ここに大きな実務上の問題があります。とくに二つめの点は短い時間では十分に語り得なかったので、少し詳しく書きます。

そもそも、政労使会議にしても、まち・ひと・しごと創成会議にしても、重要なトピックを取り上げていますが、数多く取り上げすぎていて、焦点が定まっていない。たとえば、政労使会議ではあまり注目されていませんが、力を入れたのは甘利大臣が中心になった「休み方・働き方改革」のワーキンググループですよ。この問題がワーク・ライフ・バランスと関連するのはすぐに分かります。そして、まち・ひと・しごと創成本部は、根本には地方再生、人口問題への対応があるわけで、この問題と関連すれば、地方の生活のあり方、都市の生活のあり方を考え直すということにも繋がります。その意味では、長期的にすごく重要な問題に取り組んでいると言えます。しかも、それを縦割りではなく、横串で刺したのはすごい。これは縦割り行政に対して自民党の新しい政治主導を見せているとも言えます。

しかし、問題が具体的で、短期で解決できる場合は、従来の官僚組織の方がよい場合もあります。この場合で言えば、労働相談センターないし労政事務所で、課題は賃上げです。どうしても総合性を求めると、時間がかかってしまう。政治家は選挙というタイムリミットがあるので、長期の問題も短期的に対応するのは仕方ないとも言えるのですが、長期の問題と短期の問題は分けて考えた方がよいと思います。そして、少なくとも政権に取ってはマクロ経済政策が一つの肝なんですから、ここは賃上げに集中してもよいタイミングではないかと思います。とくに、消費増税延期は消極的な防衛策的側面があり、積極的な成果が必要になるでしょう。自民党自身もこの部分を十分に武器に出来ていません。

なお、私は基本的に政策研究というものをほとんどしていません。政策史研究はしましたが。それは現実の政策がどうあるべきだという検討にはあまり興味がなく、それが現実に力を及ぼせないならば、ほとんど意味がないと思ってるからです。そういう立場の私がこうして政策提言をしたということは、これが現実的に可能だと考えているからに他なりません。それが何を意味するかと言えば、私自身は実務的なことを行う能力はありませんが、少なくともそれぞれの立場の何人かの人物に話をすれば、彼らには短い説明(3分)で趣旨が伝わり、現実的にどう動くべきか、あるいは自分の所属組織をどう動かせば良いか、ということを理解してもらえるという見通しがあり、そこまでは少なくとも協力してもらえるように説得してきますよ、ということです。

今回は竹田解説委員のリードのおかげで、短い間で言いたいことをほぼすべて言い尽くしました。そして、それ自体は分かりやすかったのではないかと思います。私自身は打ち合わせの途中で竹田さんがおっしゃっていた意見とそれをめぐるやりとりはぜひお伝えしたいと感じたこともあって、そう申し上げもしたのですが、時間を考えたら、そういう展開は難しかったな、賢しらだったなと分かりました。思い起こすと、冷汗三斗です。それに何より、ホスト役に徹するということは、背後にいるリスナーがどう感じ、どう思うかを一方で引き受けながら、相手役の私の主張を余すことなく伝えるように、的確に合いの手と質問をしなければならないんですね。短い時間でしたが、そういうプロの仕事を堪能させていただきました。竹田さん、ありがとうございました。
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