某所のWEB原稿を書いているとき、話の都合から、人事労務管理論のことを少し触れました。もう少し詳しく書きたかったのですが、何しろ、字数を削らなくてはならないくらい論点を詰め込みすぎたので、こちらでちょっと書いてみます。たぶん、そっちのサイトよりも、ここの方が人事の方や研究者で見てくださる方が多いと思いますので、その方がいいかもしれません。

人事・労務管理論というのは基本的にアメリカから輸入してくるものです。これは別に成果主義全盛の1990年代から始まったことではなく、基本的には1910年代に科学的管理法が提唱されてから、ほぼ一貫して続いている傾向なんです。ただ、日本的経営が喧伝された1970年代後半から80年代にかけて、アメリカの方が日本に学べみたいな話になったので、そのことが忘れ去られたということがあります。ということは、アメリカの動向を押さえながら、日本の歴史を振り返ってみるということが一つの重要な作業ということになるかと思います。

その前に、一つの前提的なお話を。人事・労務管理論あるいはそれに付随していた労使関係論というのは、日本的経営論だけではなく、アメリカの経営学においても1960年代くらいまでは重要な位置を占めていました。それはその時代の経営学が今で言う経営工学、もう少しかみ砕いて言えば、テイラーが始めた科学的管理法の影響をすごく受けていたからです。日本でも会計・経理の重要なトピックは標準原価計算だったりしたので、要するに、科学的管理法を基軸に経営全体が見渡せると言っても過言ではなかったのです。二村先生がゴードン先生の『日本労使関係史』の解説のなかでアベグレンの『日本的経営』の原題がもともとは「ジャパニーズ・ファクトリー」であることを指摘して、そう訳されたのはその時代の必要性があったのだろうと書かれていました。当時の経営学者、具体的に占部先生ですが、そう考えられたのもこういう背景を理解すればよく分かります。

アメリカの人事・労務管理は、コンサルタントとしてテイラーの経営工学派と、心理学派の二つがいて、人事・労務管理論的には労使関係学派と心理学派の二つがいました。ここで重要なことは経営工学派の活躍の場が専門化されることで工学部門に限定され、さらに労働運動の交代から労使関係学派が80年代に後退したことで、心理学グループの影響力が圧倒的になったということです。それで労使関係部門はみんな人的資源管理論という名前になっていったのです。

1960年代にコンピュータが発達すると、情報理論が注目を集めるようになりました。MIS(経営情報システム論)というのがそれです。この時代はまだコンピュータで何が出来るかよく分からない時代でしたので、あたかも全部の情報が集まってくれば、経営者がより合理的な判断が出来ると考えられることさえありました。そうしたことと、キューバ危機などの軍事的な危機などが契機になって、意思決定論が発達していきます。もしここでマズローが出てこなければ、心理学とくにリーダーシップ論はこんなにも影響力を持たなかったかもしれません。

マズローというと、欲求の五段階説で有名なわけですが、あんな図式化されたもので、影響力があるわけがありません。マズローのすごさは『完全なる経営』を読むとよく分かります。この本は全然、体系的ではありません。要するに、組織に関心を持ったマズローが実際、企業を歩いて、観察したノートといったレベルのものです。しかし、逆に言うと、面白い着想はいっぱいあって、リソースフルなんですね。ということは、おそらく、マズローと対峙した経営者は、彼と話すことによって、あるいは彼に話すことによって、刺激を受けただろうと推測されます。

もう一つの大きな流れはチャンドラーです。チャンドラー自身は別に経営者の意思決定だけを重視したわけではないのですが、少なくとも、彼がケースとした選んだ1920年前後、デュポンやGMは経営組織を決めるのに、経営者の意思決定が重要な役割を果たした。そんなきっかけはいいんですが、これが抽象化されていくうちに、経営戦略論と経営組織論が密接な見解になりすぎてしまったというのが私の見解です。トップの意思決定、特に経営戦略論が重要になってくるわけです。

こうした大きなトレンドのなかで、人事管理論のなかでは経営戦略論と結びつくのは必然で、戦略的人事管理なんてことが言われます。しかし、私が読んだ本の中で、戦略的人事管理が使えそうだなと思ったことは一度もありません。それが私の中では非常に疑問でした。

だから、人事の方で最新動向を押さえてらっしゃる方の人事改革の話を聞くと、怖いなあと思います。あんまり余計な本や雑誌を勉強せずに、組織内で重要なことが何かを考え抜いて、いろんな改革が進んでいくことを祈ります。
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