途中まで書いて放っておいたのですが、出してみます。追加で何か書くかもしれませんと言いながら、書いたことはないので、とりあえず、あげておきましょう。てか、読んだそばからもう忘れかけてるので。

このところ、義務教育まわりのことを考えていて、前に藤沢の本屋で見かけて、これは読まなきゃと思っていて放っておいたんだけれども、清川郁子『近代公教育の成立と社会構造』はやはりすごい本だった。

1.マス・エデュケーションの成立というテーマは、私は国民教育という観点での考察が絶対条件だと思うけれども、清川さんはこの点を二つの意味でしっかりと軸に押さえている。

1.1 日本における地方自治制度の確立と小学校というテーマ。日本における国民国家の形成は、幕藩体制から中央集権型明治国家(後に内務省中心に集約される)への移行とともにあり、この点の考察が不可避であるが、この点が分析の中核の一つに置かれている。

1.2 ネーション・ステートを「国民」国家と訳すか、「民族」国家と訳すかのナショナリズム研究の動向を把握した上で、あえて国民国家を採用している。これは国民教育としての義務教育を理解する上で、私もまったく正しいと思う。ただ、ちょっと気になるのは、日本は単一民族国家(135頁)という記述かな(小熊さんの本もあがってないし、読んでないのかも)。むしろ、内地雑居、植民地教育も含めたトータルな教育が重要。

2.清川さんご自身のパーソナル・ヒストリーがすべてこの本のなかに生かされているということだ。そして、その内容もすごい。まず、忘れてはいけないのは、日本は農村社会であったということである。まさに、農村部の尋常小学校出身という清川さんのご経験(生活体験)は、後進の我々には文字の上でしか理解し得ないことだろう。農村の教育を重視するということは非常に重要である。農村と都市という区分は、戦前の社会政策においても、あるいは地域社会学(農村社会学と都市社会学)においても重要である。もうひとつ、ついでに言うと、ご主人につきそって、ロンドンとデリーでの生活経験も比較の視点を入れるときには重要だったと推測される。

3.パーソナル・ヒストリーの続きだが、有賀喜左衛門に同族類型論、川合隆男に社会調査史、藤田英典に社会学の理論、藤田に加えて天野郁夫、苅谷剛彦、広田照幸に教育社会学を学ぶ、というのは、たぶん、これ以上ない贅沢な教育経験だろう。まったく偶然だが、教育社会学の皆さんの最近のものを除いて、このメンバーのある時期までの著作を私もほぼ全部、読んでいる。この学際的なところは、本書の特長だと思うが、やや広く浅く読んでいるという印象を持った。もちろん、実証に力を置く方がよいに決まっているが。

4.これをもうちょっと前に書いてもよかったけれども、社会政策と教育の関係がよく論じられている。社会政策の勉強を通り抜けずに、歴史研究で社会政策に取り組んでいる人たちの常なのだが、変なこだわりがなくて、当時の社会政策の多様性をよく捉えている。社会政策史研究のなかでこの問題を声高に訴えたのは玉井金五先生、ただ一人なのだが、文字通り孤軍奮闘である。たとえば、土穴文人や池田信の社会政策史研究はそれ自体、重要な業績だが、労働政策しか扱っていない。社会事業と社会政策の関係は、大河内先生がいらぬ問題提起をしたおかげですごく微妙で(これによって社会事業ないし社会福祉研究が鍛えられたという見方もあるが)、野口友紀子さんのような少数派はそういう課題を引き受けて、社会事業史を研究されているし、私もなんの因果か社会事業というより、社会政策をベースにして社会政策史を研究しているので、その違いにつきあっているが、本音を言えば、まあ、戦前は重なったり、区別したら、わざとファジーにやってたりするので、皆さんがその違いを気にされないことは、むしろよいことだと思っている。多くの歴史研究者と違うのは清川さんは、川合社会調査史の洗礼を受けているということだろう。

4.1 具体的には、義務教育の普及過程においては、児童労働との関係が重要になるが、清川さんは工場法の施行を一つの重要な画期と考えられていて、第三期、マス・エデュケーションが成立する時期の重要な牽引役として配役している。これは重要な視点だが、5章はもうちょっといろいろ聞きたい感じもする。

5 制度を重視する教育史に対して、これは教育社会学的な視点を、社会史の動向を取り入れながら、強調した点はよい。制度の完成だけでなく、それが定着していくプロセスを分けて捉えるのは正しいと思う。とはいえ、一般論としては分かるが、教育史研究も社会史的な視点がなかったわけではない、と思う。古いところだと石川謙にしても海後宗臣にしてもそういう視点は十分にあったと思うけどな。堀尾『思想と構造』もそうだし、太田堯の『戦後日本教育史』、木村元の研究もそうだよな。ただ、1でも述べたとおり、制度の中でも、地方自治制度との関係、国民国家の二つを重視したのは本書の特徴。

5.1 さはさりながら、農村経済史なんかの研究蓄積から言うと、日本の農村は何タイプかに分かれるので(近畿型とか、いくつかある)、山梨と長野だけでは足りないだろう。10年以上前に勉強したので、誰の何の本だかまったく忘れてしまった。けれども、一次史料から見ていくには、三つも事例をやれば、十分。というか、それは個人が出来る限界である。ただ、ちょっと講座派的な大石嘉一郎グループの研究に引っ張られている感はある。清川さんの研究の後だけど、松澤裕作さんの研究を取り入れたら、もっと面白かっただろうなと思う。松澤さんがこの研究をどう評価するかも興味深い。

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