濱口先生からリプライをいただいたのですが、ちょっと、話がおかしくなっている気がするので、もう一回、交通整理しましょう。私が認識枠組みの話と政策の次元の話をわけて書かなかったのが行けないのでしょう。

第一に、私はマルクス主義的な見解を支持するわけでもなんでもなくて、濱口先生がわざわざ引き合いに出されているので、伝統的なものをすっ飛ばした妙な読み替えはいかがなものかということを言っているのです。大企業偏重で見るのはおかしいと言っていたのは、濱口先生自身ですし、小池先生の『賃金』には中小企業その他も出てくるので、そのことをすっ飛ばすのは二重基準です。

第二に、それに対するお答えとして、80年代以降の女性政策を駆動したのが婦人少年局の官僚やフェミニストだから、そこのBGやOLの話が中心になるんだということでしょう。私も別にそういう側面があることを否定しているわけではありません。しかし、そうであるならば、正直、マル経や小池理論の読み直しでのずらしは蛇足でしょう。余計な捻りはなしで、婦人運動と、女性官僚の話だけで十分だったと思います。

第三に、マルクス経済学的発想云々から離れても、女性の低賃金問題は婦人少年局の主要なテーマであったわけで、均等法もその延長線上にあったはずです。直接、当事者の言葉を引きましょう。

こうみてくると、男女同一賃金の原則を真に実効ある強制法規たらしめるには、賃金以外の雇用条件や待遇のうえでの男女平等を保障する法規制が必要であることは明白である。(中略)法違反の決定的決め手となる基準が明確にされていないことと、賃金決定条件の前提となる賃金以外の待遇における男女平等が法的に保護されていないという立法上の欠陥がある。さらに、女子の低賃金のうえにあぐらをかいて経済成長をとげた日本の経済社会の体質からみれば、戦後長く政治を支配してきた体制自体に男女平等賃金の行政上の救済措置を阻む基本的な問題があることも見逃せない(大羽綾子著婦人労働研究会編『働く女性』113頁)

というわけで、婦人の地位向上を目指してきた戦前以来の婦人運動と、労働省内での女性の地位向上も含めた女性の労働条件の底上げを目指してきた婦人少年局の連携、それから国際労働運動の刺激があって、均等法に結びつきます。そして、1960年代末からはパートタイマーを含めた非正規労働の話が出てくるわけで、これは男性正社員を中心とした大羽さんの言葉で言えば「日本の経済社会」を裏から支えていたわけで、講座派的な見解とは別に、女性低賃金問題として重要なわけです。じゃあ、具体的な女性の低賃金労働問題を考えるにあたっては、私があげた領域の話が必要になってくるということです。

ちなみに、大羽さんの『働く女性』はすごくよい本だと思うのですが、本当にアマゾンでも二束三文ですよ(って、ここに書いたら、また価格があがるような気もしますが、それは興味をもって勉強したいという人がいるということなので、よいことでしょう)。

第四に、大羽さんがおっしゃる法としての基準の問題は、基本的に97年と06年改正でもうほぼ終わってしまって、あとはそれを実現するために、何をするかというフェーズに入っているというのが私の認識です。97年改正と06年改正では、男性への差別禁止も入ったわけで、ここは濱口先生が女性活躍って言うなという話と、女性の保護規定見直しという話ではなく、男女ともに保護すべきものは保護すべきだという大羽さんの意見と一致しています。が、ここに次の政策課題がまだあるのでしょうかというのが私の疑問で、あとはどう実効に結びつけるか、次には啓蒙くらいしかやらないのではないかということです。大羽さんにしろ、孫田先生にしろ、昔の労働省の方たちはそれこそ半分くらい組合の応援にのめり込んで(しばしば職務上の中立を逸脱しかねない勢いで)、労働条件を上げようという気概があったと思うのですが、そういうものは失われてしまったような感じがしますからねえ。よい悪いは別にして。もちろん、これは労働運動側の衰退という問題もあります(私が知らないだけで、密かにやっているっしゃる方がいれば、申し訳ありません)。

このようにいろいろ考えていくと、わざわざ「女性労働」として取り上げるならば、かつての婦人少年局が目指した女性労働の労働条件向上の原点に戻った方がよいのではないでしょうか、というのが私の意見で、それを考えるならば、もっと包括的に女性労働を取り上げる必要があったし、濱口先生はそれが分かっている人だからこそ、やって欲しかったということです。

ちなみに、私は上野先生と対談する機会がないので、接ぎ穂がなくてもまったく困りません。それにこの分野はそれこそ社会政策学会にもたくさん優秀な研究者がいるので、私ごときがわざわざ女性労働問題にしゃしゃり出る余地はありません。
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