土曜日に参加した吉田久一シンポジウムについて、備忘録がわりに少し書いておく。というか、長くなったので、ブログエントリにしよう。

今回のシンポジウム、参加してよかった。吉田久一展を拝観してきたこと、その図録をいただいたこと、さらに追悼本を購入して、そのときの関連論文集をいただいたこと、そして、何より吉田久一と縁の深い湘徳大学に実際に行ってみて、その関係者の息吹というか熱量に触れたことは、なかなか得がたい経験だった。日本仏教社会福祉学会、社会事業史学会、日本近代仏教史研究会の3学会共催というのも新しい試みで、それをどういう形になるか分からないけれども、続けていこうということになったのは素晴らしい。

学術的な内容という意味では、なかなか課題も多い気がしたのも事実である。まず、相互の使っている用語が異なっているので、意思疎通が難しい。全員、講座派を知っていて、理念型を知っていて、戦後啓蒙主義者のものを読んでいて、というような状況は今は望めない。そういう中で、どうやって橋頭堡を築いていくのかはかなり難しい課題である。

私は、正直に言えば、社会事業史研究側には少なからぬ違和感があった。あの『社会福祉学研究の50年』のなかで何度も大河内理論(ちなみに、社会政策分野で言う総資本による総労働の保全というあれではなくて、日本では資本主義が十分に発達していないので、社会政策が貫徹し得ず、その穴を埋めているのが社会事業であるというやつである)について語られているのだが、丸山とか講座派とか関係ない名前はバンバン出てくるのに、大河内の名前が一度も出てこないのは驚いた。念のために言うが、私はこのような意味での大河内社会政策論も大河内社会事業論もすぐにでも清算してほしいと思っている。

関連して言うと、野口友紀子さんの研究とかもスルーなのはなんでだろうと思った。あれは結構、勇気ある問題提起だったと思うけれども、黙殺はよくない。昔、野口さんから本をいただいて、エントリを書いたのだが、今見返すと、facebookの反応が430もついていて、ビビった。誰が読んでるの?

段階論については、講座派の克服という話がされていたが、それについては日本ではないけれども、方法論的に岡村重夫が試みたわけで、そういうものへの言及がなかったり、そもそも経済史の認識が50年くらい前のものであったりと、あとは細かいことは書かないけれども、いろいろ驚いた。

それに比べると、仏教側はすごく元気で、こんなにシンポジウム中に自分たちの本の宣伝をする人たちを初めて見たが、それはそれでよかったと思う。

用語の問題で言えば、まったくかみ合っていない「実践」という言葉はもうちょっと精査する必要があるだろうと思った。ざっくりいえば、仏教における実践とは、素人がイメージする限りでも「行」を含めた宗教体験のことであり、必ずしも社会運動的実践ではないだろう。もちろん、吉田がそういう活動の中から信仰を深めることについて語っていて、それを大谷さんが引いていたんだけれども、それは一つの考え方であり、個人的には共感するものの、議論が必要なところだと思う。だから、やっぱり二つは違うものと捉えた上で、その意味を考えることを課題としたい。ちなみに、これは前に読んだ蓑輪先生の『日本仏教史』の着想に触発されていて、まだ始まったばかりなんだろうなという気もしている。でも、宗教体験は宗教関連の思想では重要で、碧海さんの『入門近代仏教思想』や稲垣先生の『カトリック入門』はそういうところを押さえている(碧海さんの本は別にエントリを立てます)。

正直に言うと、一応、吉田の主要な著作は持っているのだが、吉田の研究がこれからの導きになるかというと、それは難しいだろうと思う。吉田の著作を読むと、謙遜もあるが、細かいことに拘泥するよりも(十分細かいことをやっているのだが)、とにかく概観を示すことが開拓者の役割であることをよく自覚していた。そういう意味で、フロント・ランナーは専門分化せずにいろんな議論が出来るので、吉田を通じて学際的対話のきっかけになるということはあり得る。まあ、仏教史どころか、社会政策と社会福祉さえも対話してないからな。。。

もう一つ、ずっと議論になった「近代」と「現代」の区分の話。モダニティをどう考えるのかというのは60年代以来の西洋でも一つの重要なテーマだと思うが、現代というのは、その世代で揺れる。近世の定義もそうだし。現在に近いところは時間の経過とともにズレてくるし、同じ生きているものでも世代が違うと感覚がズレるのは避けられない。それでも、モダニティで理解する局面はあって、それがなんであったのか、それを切り取った後に設定できる時期とは、という問題提起はあり得る。あり得るが、ポストモダンが言われてからもう少しで半世紀だからなあ。
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