濱口先生から『EUの労働法政策』をいただきました。ありがとうございます。

おそらく、労働法関連からのコメントはそのうち、どこかで紹介されると思いますので、私は違った観点からこの本をお勧めしたいと思います。この本は、タイトル通り、EUにおける労働法の概説であるわけですが、その前提としてEUにおける社会政策(ソーシャル・ポリシー)を丁寧に説明しています。この点から今日は特にお勧めしたいのです。

日本では、社会政策研究の中で労働、とりわけ労使関係を重視したグループと、社会保障グループというのがきれいに分かれています。前者が作ったのが日本労働協会であり、後者は後に社会保障研究所を作ることになります。別に、そこを対立的に捉える必要はないのですが、労働政策と社会保障を含めた社会福祉政策が社会政策と言われながら、なかなかこれらを概観するよいテキストは今の日本では見当たりません。というか、通常、研究所としてはJILPTと社人研はすみ分けています。ただ、他の国というか地域のことを知るためには労働時間規制をどうしているかという細かい問題も必要ですが、その背景として、まさにヨーロッパのソーシャルという感覚が何かを理解する必要で、そのどちらが欠けてもいけません。そういう意味で、この本は非常に重要です。ソーシャルは2000年代以降、何人かの学者の努力によって、再評価を受けるに至りました。ただ、その紹介者の多くは実務というよりはやや思想に重きを置いているように思います。それはそれで価値があるのですが、実務的な意味で、社会を変えていこうと考えている人にはぜひこういう本こそ読んで欲しい。

日本には厚い入門書という考えがなく、どうしても薄いものから入ります。ですから、いわゆるhandbookという発想がほとんどない。ただ昔からそこのところはみんな考えていて、日本では事典がややそれに代替する役割を果たしている場合があります。事典と名乗らず、単に辞典という場合もあるので、そこは内容を確認しないといけません。『EUの労働法政策』はこの事典的役割を相当程度、果たしていると思います。ですから、全編、読めないと思っても、文字通り備えておくとよい本です。

国際比較的に言えば、今は東アジアが注目されたりしていますが、地域としてのアジアとヨーロッパでは全然違います。ヨーロッパはローマ帝国、キリスト教、ローマ法という統治秩序をかつて経験していますが、アジアにはそれに該当するような共通経験はまったくないと言えるでしょう。モンゴル帝国が広大な土地を支配しても、その後の歴史で別にモンゴル帝国に擬して国家づくりを試みる国はありません。その点、日本を含め、いわゆる西洋国家を模倣して近代国家を作った国にとっても、ヨーロッパという括りは大事で、それを専門としない者にとってはヨーロッパの「ではの守」は大変貴重で、かつ、特定の国民国家でなくヨーロッパ地域全体を射程に収めているというのはさらに希少です。

まあ、しかし、そういう大きな話をすると、なんで労働という狭い範囲なのに、と思われるかもしれません。しかし、世界的にはILOの存在も大きいんですよ。ILOは基本的には第一次世界大戦というヨーロッパの戦争の戦後処理で作られたものですから、国際的な統治の問題に深く関わっています。1927年に世界人口会議が開かれますが、やはりILOの影響ありますからね。そういう意味でも、ヨーロッパの労働法政策から、いろいろ考えるというのは、なかなか有効な手段ではないかなと思います。まあ、ただ、このあたりは私も勉強中なので、もう少し先で考えていきたいと思います。

啓蒙書には啓蒙書の役割があるので、別にそれはそれでよいんですが、出来れば、その中から少数でも『EUの労働法政策』『労働法政策』のような体系的政策理解、『日本の雇用修了』の法社会学的視点などを継承して深めていく人が出てきてほしいなと期待しています。そして、折に触れて言っていますが、そろそろこちらも改定されたので『労働法政策』も新しいものを出してほしいと念を押しておきます。

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