書きかけに足しますんで、また、おかしいかもしれません。
ミスリーティングなタイトルですが、読んでいくと、真意は分かっていただけると思っております。

稲葉さんの「「労使関係論」とは何だったのか」シリーズが更新されたのを機に、前の方を読み返してみた。書いてあることはほとんど理解できていると思うのだが、まだ、どういう方向に行くのか私には見えてこない。

細かいことが気になったので、思いつくままに書いておきたい。

氏原=小池ラインという見方は、どうも私が在籍中も東大出身者のなかで共有されていたように思うが、この捉え方は必ずしも正確ではない。学術的な内容だけで言うと、小池先生は後にいわゆる内部労働市場論を論じるし、その延長線上に企業別組合についても言及されているが、一番最初のお仕事は『日本の賃金交渉』で、簡単に言えば、(その当時の多くの人は)企業封鎖的市場といっているけれども、産別が結構相場を作ってるじゃないか、というのが重要な主張だった。現代からみると、春闘だとか、トヨタが相場を作るとかそういう仕組みは常識に属することだが、小池先生はおそらく常識として定着する前に学術的研究として送り出してしまったのである。それから、1960年代前半?に臨時工についての論文を発表されているが(部分的には『賃金』に収められている)、そのエッセンスは大企業の中に臨時工という層が競争して、その競争に敗れた人たちが中小工場に行くという話で、強調点は労働市場は大企業だけで孤立してるわけじゃないという方にあった。

ついでに言うと、昨日の濱口さんが紹介されていたエントリで小池先生の熟練論を論じているものがあったが、ちょっと誤解があるようなので触れておく。大企業を中心に論じることの意味は、現代ではそこがもっとも技能形成を行う場を提供するという段階論的な前提を受け入れないと理解できない。端的なイメージではクラフトから企業へという感じだ。別にクラフトや企業だけが重要だといっているわけではないのだが、そのときに代表的な対象をチョイスするというのがポイントなのだ。だから、小池理論=大企業論みたいな狭い構図で理解しない方が良い。ちなみに、稲葉さんの「労使関係論とは何だったのかシリーズ」はこんな簡単なことは説明してくれないが、これを踏まえて(15)を読まれると、幾分かは分かりやすいかもしれない。うーん、まだ、分かりにくいかもしれない(笑)。

小池先生の大企業という枠組みを超える方向を目指した研究はないかといわれれば、ちゃんと文献的なフォローをしていないけれども、浅沼萬里先生と河野英子さんの研究をあげたい。浅沼先生がサプライヤ論を論じたことは有名で経済学まわりの人は誰でも知っていると思う。河野さんはゲストエンジニアという、サプライヤからメーカーへと出向したエンジニアがどのように技能を形成し、また、戻ってきた後に経験した仕事との関係でそのゲストエンジニア経験を論じたりしている(もっといろいろな面白い論点があるが)。ここまでくれば、理論的には企業グループへと拡張するし、さらには産業集積論みたいな話ともブッリジして、技能形成を考えることが出来るだろう。また、もの造りのような職種ではなく、SEや営業などの顧客との直接コンタクトありきの職種では、技能の中に顧客との関係構築自体が含まれるわけだから、同僚や機械との協業(機械との協業という言い方が変なのは承知しているけど、詳しく書くのが面倒になった)だけで話が終わらない。そういう領域にも進んでいけるだろう。

話を組合まで戻そう。日本には奇妙な風習があって、日本の組合は企業別組合でヨーロッパはトレードユニオンみたいな理念型でよく論じられる。考えてみれば、日本だって鉄工組合の輝かしい栄光は今、措くとして、現在の組合の一つの潮流を作ったのは友愛会という一般組合だった。また、ウェブ夫妻の『トレード・ユニオニズムの歴史(邦題は労働組合運動の歴史)』には、一般組合の話もよく出てくる。そういう意味じゃ、産別や一般組合の問題を理論的に考えるというのも必要な作業だろう。産別についてはさしあたり、小池先生の『日本の賃金交渉』が一つの到達点であることは間違いない。なぜだかみんな、言わないので、あえて書いておく。

稲葉さんの話はミクロ(この場合、企業や労働者個人、正確には資本と労働かな)とマクロ(国)の二つの次元は出てくるけれども、その中間はまだ出てきていないような気がする。日本経済史でも10年くらい前から少しの間、中間団体の役割みたいなことが注目されたことがあった。労働の分野だと、猪木先生の編著は、トクヴィルの議論をうけて、この領域を扱っているといえるだろう。

本当は私自身が考えている、企業別組合がどうして歴史的に生まれてきたか、という点を書きたいと思ったのだが、長くなったので、また改めよう。ちなみに、技能形成からは説明しない。

このエントリは稲葉さんとはちょっと違った角度から書いてみたが、案外、大企業枠をどうやって外すのか、みたいな大枠の問題意識は共通してたのかな、などと今、思った。稲葉さんの議論は労農派にも講座派にも宇野派にも内在的に入っていって、それぞれが持っていた道具を使いながら、問題を打破していくという方向で、それは困難かつ、立派な道である。とはいえ、ちょっと付き合いが良すぎるんじゃないかという気がしたのも偽らざる感想だ。

何はともあれ、最後に河野さんの本を紹介。私は個人的には、『もの造りの技能』と並んで自動車産業における技能形成を勉強したい人は必ず読むべきだと思っている。興味ある方は是非。

ゲストエンジニア―企業間ネットワーク・人材形成・組織能力の連鎖 (HAKUTO Management)ゲストエンジニア―企業間ネットワーク・人材形成・組織能力の連鎖 (HAKUTO Management)
(2009/01)
河野 英子

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