次は大原さんの話を書きましょう。

私も実は倉敷のアイビースクエアに行ったことあります。そこでクラボウの人に資料の状態なんかを御伺いしました。ご親切にいろいろ教わりました。そのときは博論が出来ていなかったので手が出なかったのと、こりゃ、大変なことが出来そうだ、ということが分かったものの、どうやればいいのか分からなかったので、そのままになっています。

私もあの美観地区すごい好きで、歩くの楽しいですね。私は美術館に行くと一日でも眺めているタイプなので、多分、ずっと居られます。一緒に行った人には呆れられたし(笑)。そして、紡績の史料館を1時間以上、見てるのは私だけだと思います。

で、大原孫三郎さんは二つ注意しておくべき点があります。まず、彼はいわゆる地方名望家と理解する必要があります。今風に言えば、地元の名士ですが、江戸時代まではそういう人たちは公的役割を担っており、それが今でも引き継がれているところがある。そう大原家はちょっとお上的な意味を持っています。その意味を考えて見ましょう。

よく江戸時代は公私が未分離であったといわれます。こっからは私の勘ですが、たしかに今の基準では公私未分離であったといえるものの、別の基準があったんじゃないか。それは神様も含めた世間という世界と世俗的な世界です。この場合、神様は唯一神ではありません。日本の八百万の神様。仏教だったら眷属とか、キリスト教でいえば天使とか、そういう次元のものたちが含まれます。パブリックの考え方が近代西洋と全然、違うんですね。そのあたりを切り込もうとしたのが晩年の阿部謹也先生で、ただし、絶対的に時間が足りなかった。世間関連の本は面白いものの、掘り下げ不足です。要職につかれてましたから、残念ながら仕方ないですね。いずれにしても、パブリックの問題はこういうことも考えていかないと行けない。でも、あんまりちゃんと考えられてないと思います。

なんで、こういう労働問題と関係ないことを書くかというと、大原さんの信仰をどう考えるかということとも絡んでくるからです。これが二つ目の注意すべきこと。私にとってすごい印象的なのは大原さんは若いときは放蕩もんだったことです。いわゆる聖人に数えられる人たちは金持ちも多くて、この世の富と権力を知り尽くした上で、宗教生活に入っていく人がいくという黄金パターンがある。たとえば、キリスト教でいえば聖フランチェスコ、最近だったらガンジー、それから仏陀。ただし、大原さんは仏教で言うところの在家ですから、そういう方向に行かなくてもいい。ただ、児島虎次郎への献身ぶりや何かからは、よい意味での金持ちの行動原理を感じます。

その大原さんが大原社研を作り、労研を作った。ただし、念のために言っておくと、信心深い大原さんが科学の研究所を作ったのは不思議でもなんでもない。科学と宗教が対立すると考えるのははっきり言って教養が足りないだけです。そこが分からないと、信仰と思想信条を区別できなくなってしまう。西洋の場合、背景には哲学をバックボーンとした神学の伝統があるわけです。そういう神学的脆弱さが、私は左翼的キリスト教徒という不思議な、しかし、今にも繋がる人たちを生み出したのではないかと感じています。こういう宗教と思想の問題は経営思想史、社会思想史上、絶対に誰かがやらなきゃならない。由井先生はキリスト教ではなく、禅思想との関係からですが、やっぱりこういう領域を論じてらっしゃる。それから、先だって亡くなられた間宏先生も晩年は中牧弘允さんの研究をお引きになられて、そういう問題に関心を持っていらっしゃった。隅谷先生のキリスト教研究も結局頓挫しちゃった。難しいですね。

直接、関連しませんが、多分、大原さんの奥様かお母様が「倉敷の繁栄があるのは女工さんたちの御蔭で、そのことを忘れてはならない」ということを仰ってたと聞いたことがあります。おそらくこれは想像ですが、営業的に成長していくと、すべてが自分たちの手柄と考える輩がいて、そのことに対しておっしゃられたんだろうと思います。もちろん、大原さんも信仰とは別にそういう思いもあっただろうと推測しますが、やっぱり名望家という点は外せない。件の女性(母上か奥様)も昔だったら、雇主が被用者を食わせるという感覚だったけれども、女工さんに食べさせてもらってるんだという意識が強かったんでしょう。

ちなみに、労研はその後、戦時期から戦後にかけて生活給思想を支えます。そういえば、生活給思想も電産からと誤解している人がいるので、その点は何れ書きましょう。ただ、研究者でも知らない人がいるので、困ったものです。

個人的には、岡山は特別だなという印象を持っています。本当はチャンスがあったら、岡山の地場的な研究をやりたいところです。岡山は宇野弘蔵はじめとした左の学者も沢山輩出しているし、黒住教が始まったところでもある。それから、石井十次という社会事業でも面白い対象がある。豊富な材料がありそうです。
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