そろそろ後期の授業(労働経済論)が始まるので、その下準備をと思い、経済学全般の議論を勉強しなおすことにした。労働経済論というのは厄介な科目で、非常にシンプルに近経・非近経の二つに分ければ、非近経ということになるだろうか。もうちょっと大まかに言えば、制度派といえるだろう。ある意味では何でもありなのだ。最近まではこっちの系統は異端ということになっていた。そういうわけで、数週間前に本屋に行ってみたところ、こんな本があった。

入門 制度経済学入門 制度経済学
(2007/04)
ベルナール シャバンス

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出版元のナカニシヤ出版の紹介文からとりあえず、目次を引っ張ってきた。

<目 次>

日本語版への序文:経済理論の制度主義的転回はあるのか

序章 経済学における制度主義の系譜

I 制度主義の元祖
 1.シュモラーとドイツ歴史学派
 2.ヴェブレンの進化論的制度主義
 3.ハミルトン:制度派経済学
 4.コモンズ:組織と制度
 5.ポランニーと制度化過程としての経済

II オーストリア学派とオルド自由主義
 1.メンガー:有機的アプローチと実用主義的アプローチ
 2.ハイエクにおける秩序とルール
 3.オイケンとオルド自由主義

III 新制度派経済学
 1.ウィリアムソンとガバナンス・メカニズム
 2.ノース:フォーマルな制度とインフォーマルな制度
 3.ゲーム理論と比較制度分析

IV 現代ヨーロッパの諸学派
 1.レギュラシオン理論:歴史的なマクロ経済学
 2.コンヴァンシオンの経済学:ルールを解釈する
 3.ホジソンと旧制度派経済学の刷新

V 制度主義の統一性と多様性
 1.主要な共通テーマ
 2.著しい多様性
 3.理論的差異
 4.限定的な対象、一般的な理論 

何が感激したかって、この本、実に150ページなのだ。よくこれだけの内容をこの分量に盛り込み、値段を2000円(+税)に抑えた。この心意気は見事だといわざるを得ない。また、キーワードについてカッコで括った簡単な訳注が添えられているのも嬉しい。さらに、最後に文献案内がある(これで十分だとは思わないけれども、その心配りは心憎い)。

この本の特徴は何と言っても目配りが広いところであろう。いわゆる旧制度学派(Ⅰ)と新制度学派(Ⅱ)だけじゃなく、ヨーロッパの制度学派(Ⅲ、Ⅳ)についての記述があることも嬉しい。正直に言えば、私は新制度学派と比較制度学派がどう違うのかよく分からなかった、というより、まったく知らなかったことが分かった。そういう意味でも有難い本であった。

ただ、今回、これを読み通して、つくづく思ったのは制度学派って難しいんだなということだった。端的に言うと、目次をもう一度見て欲しい。これと例えば、『マンキュー入門経済学』や『ステイグリッツ入門経済学(第3版)』と比べてみよう。この本の章立てが個人名ないし学派別になっているのに対し、近経の両者にはそういうものはなく、すべて論点で整理されている。別にどちらがよいというわけではないが、制度学派はそれだけ統一されていない、ということだ。実際、この本でも論じられている統一性は三つだけである。すなわち、制度を扱うこと、変化(プロセス等)、創発性である。この他にも、よく論じられるものとして、たとえば「法」「慣習」「進化(多分、元々はevolutionなので展開でもよい)」などがあるが、これらはそれぞれの論者によって捉え方が異なるため、一様に定義するのは難しい。

一様に定義できないというのは、案外厄介である。アカデミックなレベルで、ああでもない、こうでもないと悩むのはよいことだ。もちろん、それを総体としての制度学派のルーズさと非難することも出来るが、逆に学問としての発展可能性の豊穣さともいえるからである。だが、これを入門レベルで教えるとなると話は別だ。学び手が困惑するのが目に浮かぶ。頭が痛い。10回くらい読み倒せば、分かるようになる・・・ような気はするが、講義には向かない。まして、労働経済論には細部は要らない、ということにしておこう。やっぱり、自分でレジュメを作らなきゃダメだな。

独り言はこのくらいにして、一応、望蜀の念を言うと、この本にバーナード、サイモン(それぞれをくっつけずに別々に)の位置づけ、複雑系経済学の話があるともっとよかった。バーナードはともかく、サイモンはキーパーソンとして所々、出てくる。また、複雑系の話は2段落(注1+本文1?)くらいで軽く触れられている。どちらもクリティカルな内容なのだが、圧縮されていて、もうちょっと詳しく著者の見解を知りたい。それから、バーナードのフォーマル/インフォーマル・オーガニゼーションという考え方はかなり親和性がある筈だ(が、これは1段落くらいでいいかも)。ここを繋げてくれると、経営学ともブリッジしやすくなったのでは、という気がしている。

それから、日本で制度学派を勉強するには、宇野理論を知っていた方がよいと思う。誰かがこの本に10ページくらいで解説を付け足してくれると、大変、役立つ(実際は無理だが)。宇野派は今やいろんな立場の人がいっぱいいて、何を最初に読めばいいか、ナビしてくれる人がいないと分からん。私は幸いにして時代遅れの先輩がいたので助かった(笑)。宇野原論くらいを読んでおけばいいという人もいるが、宇野原論はそんな簡単に読める本(文章?)ではないし、それだけじゃその後の議論も終えないので、やっぱりダイジェストが欲しいところだ。欲を言えば、日高先生くらい分かりやすく、洒脱な感じで。

そうそう、話は飛ぶが、新制度学派の教科書は長い間、ミルグローム=ロバーツの『組織の経済学』と言われていたけれども、私だったら菊澤研宗『組織の経済学入門』有斐閣、2006年がお勧めだ。著者自身が仰られるように、『組織の経済学』の入門にもなる。第一、『組織の経済学』は厚い(厚さの割には安いが、ちょっと高い)。私は菊澤先生を直接存じ上げないが、前に『市場と財務の相互作用論』を図書館から借り出してきて読んでみたところ、ちゃんと(昔は輝いていて、その当時誰も振り返らなくなりつつあった)「ドイツ経営経済学」を引き継ぎ、そこに自分のポジションを築いた上で、飛躍していこうという姿勢に共感した(野心的な認知論みたいな話も、その心意気は大変、気持ちよかった)。以来、批判的に『組織の経済学』を摂取されて、ついには読みやすく、3000円以内の入門書を出された。こんなのおまけのような話だが、そのプロセスも素晴らしいと思う。

内容についてはいずれ、また。
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