経営史学会の報告準備のためしばらく忙しかったのだが、そのうち、自分がブログをやっていたことさえ忘れてしまっていた。また、少しずつ書いていきたい。

今回の経営史学会では長島修先生の報告が最大の収穫であった。報告の内容は官営八幡製鉄の研究体制について。軸は二つあったと思う。技術者の上部の人たちが研究開発をしていく中で研究所を作っていく。最初は周囲から工程の一部の試験科みたいなもので十分と考えられ、実際、創立初期の研究所には試験研究の役割を担わされていたが、徐々に独自の研究する機関として成立していく。第二に、技術者の中間層から宿老(職員待遇の職工)を含めた人たちによる独自の研究活動と、その成果を発表する場所として『製鉄研究』(今の新日鐵技報)が作られたことがあげられる。面白かったのは『製鉄研究』が『鉄と鋼』という業界紙から合併を求められたときに、断ったという話である。理由は、我々は現場で考えて、一から自分たちの手で雑誌を作ったという矜持があるので、そんなエライ人たちの世話にはならんというわけだ。

実は、これは私が考えていることとも非常に密接に関係している。今回の報告は「新日鐵の生産管理システム」でどのようにオンライン・コンピュータ化を実現したか、その意味を明らかにすることであったが、そもそもコンピュータ化を作り上げることが出来た仕組みは何か?という前提自体を捉えたいというのが私の問題意識だ。その一つのポイントがホワイトからブルーまでの一体化した協力体制である。

今でこそ、我々は日本の鉄鋼業が少なくとも技術面で世界のトップに君臨していることを常識のように知っている。1970年代からずっとその地位を維持してきたからである。しかし、それ以前、1960年代初頭の世界の鉄鋼業を当時の目で眺めてみると、技術的にはアメリカやソ連、ドイツを中心としたヨーロッパが大きな存在として君臨していた。その先進諸国に先駆けて日本はオンライン化を先進的に開発してしまった。鉄鋼業のコンピュータ化の歴史においては、イギリスのスペンサー製鉄所が1960年代初頭にコンピュータ化構想を発表しており、世界的に有名であった。日本鉄鋼業の驚くべきは、別に新日鐵(というより、60年代は八幡)だけでなく、他の高炉メーカー、富士(もう一つの新日鐵)、住金、川崎、鋼管、日新も1960年代後半から70年代にかけてほぼ同時にコンピュータ化を成し遂げていったことにある。

しかし、私がそういう主張をすると、新たな疑問が出てくると思う。なぜ、新日鐵ないし八幡なのか?その理由は二つある。実はメインのコンピュータ化については、八幡、特に君津が先進的になったのは偶然としかいいようがない。いや、もう少し精確にいうならば、タイミングがよかったのだ。50年代後半から70年代中ごろにかけて日本では新しい製鉄所が建築されたが、その建築のタイミングとコンピュータ技術(特にハードウェア)の発展のタイミングが君津ではバッチリだった。逆にいうと、鋼管福山、川鉄水島、富士名古屋もほんの1年でも建設が遅かったら、また、事態は変わっていたかもしれない。実際、富士製鉄では名古屋を優先的に作るために大分の建設をストップしていたが、結果的には、八幡と合併後に本格的にプロジェクトが動きだしたため、大分では富士だけでなく、八幡の技術の粋も結集させた最新鋭のコンピュータシステムを実現することができた。実際、大分の初期開発に携わった人たちに「天・地・人」に恵まれたという実感の回想がある。逆に、名古屋はコンピュータ化が遅れた。富士では広畑が先で、名古屋ではその経験を踏まえて開発が行われることになる。まぁ、そういう細かい違いはいくらでもあるのだが、全体的には各企業はかなり横一線という感じで捉えた方が良い。その前提の上で、やっぱり君津のAOLはすごいよね、ということなのだ。

もう一つは、よく言われるように戸畑製造所の管理体制である。労働で鉄鋼を研究している人で戸畑管理方式という言葉を知らない者はいない。実際、鉄鋼を専門としていなかった私でさえも言葉だけは知っていた(もっとも私は森先生の弟子なので当たり前だが)。一般には、労務管理的には作業長制度とラインスタッフ制度の導入、そして労使関係的にはいわゆる「青空の見える労務管理」の実現で有名だ。一応の暫定的結論だけいうと、私は「青空の見える労務管理」をそんなに重視しておらず、作業長制度とラインスタッフ制度を重視している。まだ、研究中なので具体的には確定した形でいえないが、いわゆるIEをどういう風に摂取したかが決定的に重要になるだろう。しかし、これはそもそもIEをどう考えるかというところから考えるべき大きなテーマなのでまた別に、語ることにしよう。
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