本当は貰ったその日に全部読んだんだけど、色々書きあぐねているうちに時間が経っちゃいました。簡潔に感想だけ、まとめとこうと思います。

多分、この手の本の常として全体は玉石混淆といわれるだろうな。その要因は、内容の充実度ということもあるけれども、学際的な本ですので、読者の好みも相当に分かれるだろうと思います。個人的には心理学系の紹介も楽しみました。

1 『イギリスの工場、日本の工場』
おぉ、と思ったのは久本先生の解説の中で、出来高払補足賃金が時間給で、基本賃率が(生産量に応じて支払われるという意味で)出来高給という箇所を引用しているところでした。ドーア先生の観察が細部にいきわたっていることを示す最高の例証です。ただし、これが異分野の人に分かってもらえるかどうかは謎。かなりマニアックな気もします。

ちょっと誤解を生むなと思ったのは、内部昇進と新規学卒主義の話について、小池先生を引いているところです。小池先生の一連の研究はほぼブルーカラーで、1990年代以降、ホワイトカラー、特に近年ではトヨタ技術者の研究を発表されてきました。そこではたしかに、一貫して内部昇進の重要性を指摘されてきました。とはいえ、手許に『ホワイトカラーの人材形成』がないので確認できないのですが、小池先生は他の著作や講演などでは一般にむしろ、学卒よりも、1年くらい働いた非正規からの登用(昔は臨時工、今は派遣)を重視されているように思います。その理由は一緒に働く人にとってはその方が仕事ぶり(能力も含めて)、人柄などが分かるということです。ただし、これはベテラン職長の意見、それに全く同意するという形でお話されるので、あくまでブルーカラーの話です。ホワイトについては、アメリカのインターン制を紹介されますが、日本ではお客さん程度で本格的な制度化していないということでしょう。その意味では新規主義といっても当らずとも遠からずでしょうか。私の個人的な印象では、新規学卒主義というのは制度の慣性という感じがします。

歴史的に新規学卒を見ると、日本は世界でもっとも早く大量の学卒を作り出した国です。一般に新規学卒一括採用が始まったのは第一次大戦期頃だといわれていますが、それまではかなり縁故を背景にした紹介が主でした。ところが、数が増えてくると、紹介も組織化してくる。そういう風に理解できるんじゃないかなと思います。ちなみに、戦前の学卒は相対的に少ないんですが、それでもかなり多いと思います。特に工学部卒を輩出したのは大きい。これは供給側のロジックね。

需要側からすると、いわゆる学卒ではないけれども、学校を入職窓口として利用したのは紡績会社でしょうね。彼らは戦後、長期にわたって新規中卒女子をターゲットにしていたわけですが、その嚆矢は大正期くらいからの小卒女子のターゲット化です。要するに、一括大量人員の確保です。これが需要側のロジック。特に成長期はこれが効くわけね。

ただ、終身雇用の説明に収斂するそういう特徴ももちろん、重要だと思うのですが、現在はむしろ、雇用のポートフォリオという形で、様々な雇用形態に注目が集まっています。実は、そういうのは明治時代からあるんですね。基本的には労働市場が買い手市場になると社会問題化する傾向がある。

もちろん、久本先生も従業員ピラミッドの年齢構成を紹介しており、労働市場の需給の影響があることは重々承知されています。それに、この本自体、石油危機直前に出されているので、高度成長期がポイントだということは注意すれば分かります。が、歴史的に読む習慣がない人は、パッと読むと分かりにくいかもと思いました。やっぱり、異分野の人に分かってもらうのは骨ですね。

2 『東京に働く人々』
私の独断と偏見では、この本の中でもっとも重要なものは八幡成美先生の『東京に働く人々』の解説です。本自体の解説というより、石原都政に潰された都労研調査の重要性についての歴史的証言としてぜひ読まれるべきでしょう。

3 『日本企業の人材形成』
小池先生の説を取り上げるのに、なぜこの本なのかはやや疑問が残ります。荻野氏が担当されるならば、『もの造りの技能』について書いて欲しかったなぁ。順当なところで『職場の労働組合と参加』。もっともこの本の趣旨から離れて言えば、論文ではKoike, Kazuo, "Skill Formation Systems in the U.S. and Japan: A Comarative Study," in Aoki, Masahiko ed., The Economic Analysis of the Japanese Firm, ELSEVIER SCIENCE PUBLISHERS B.V., Amsterdam, 1984に当られるのがよいでしょう。知的熟練の概念はまだ生まれていませんが、小池キャリア論のエッセンスはここにあります。また、フリーマンによるコメントも同じく重要です。小池先生の説を勉強したい方はご覧下さい。

4 『改訂版人間性の心理学』
言わずと知れたマズローの代表作。執筆者は望月由起さん。すみません、存じ上げません。トラパを取り上げるかどうかはとっても微妙な問題をたくさん含んでいますが、改訂版が出る晩年までのマズローの活動や変化を踏まえるならば、核とせざるを得ないんですね。解説では簡単に触れられているだけですが、見出しにされたのはそういうもろもろの意味があるのでしょう。その意気やよしです。

その他
グラノベッターの『転職』を取り上げるんだったら、野沢慎司編の『リーディングスネットワーク論』が良かったと思います。グラノベッターの論文も入っているし、キャリアを企業内にとどまらず、まさにライフサイクルという視点で捉えるならなおのこと。第二段は家族社会学の研究がもっと取り入れられることを期待したいです。歴史関係ではハレーブンの『家族時間と産業時間』が一押しです。

それから、賛成するか反対するかは別にして、マースデンの『雇用システムの理論』は労働問題を考える人には必読ですよ。
スポンサーサイト
コメント
コメントを投稿
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事へのトラックバック