ブログをはじめてから、他人のブログも読むようになったのだが、私には非常に謎な議論がある。それは職業訓練に関する議論である。大きく分けて、学校か、企業かという論点で、もちろん、その背後には費用をどこが負担するのかとか、論点が織り込まれているのだが、大雑把にはこう理解してよいだろう。この手の議論を丁寧に考えるためには、問題は社会のどの層をどういう風にしたいのかということを明確に考えた方がよいと思うのだが、今日はそんなことよりももっと根本的なことを考えたい。

多分、問題の核は二つある。一つは、いわゆるschool to workの接合、ジョブ・マッチングの問題。それから、こっちが本題だな、何を身につけるのかという問題である。hamachanブログで散々、議論されている職業レリバンスの問題もこれに関係するが、とりあえず、白熱している議論はスルー。

なんでこのエントリを書いたかというと、メンバーシップ型とジョブ型という理念型で、この問題まで考えようという話が出てきているからだ。hamachan影響力恐るべし。まぁ、このレベルでこの議論を根本的に間違っている。レベルが高いとか低いとかではなく、違う次元の話だ。

技能を身に付けるには、OJTとOffJTの二つがある。いうまでもなく、仕事につきながらの訓練と仕事につかない訓練である。後者は基本的に座学、したがって学校もほぼこれに当てはまる。OJTも実は二つあって、研修期間中に先輩に習いながら覚えるというややフォーマルな形と、実際に仕事をしながらいろいろなことに気づいていく、そういうものである。

どんなに頑張っても学校ではOJTは無理である。学校制度を採用した上でのあり得べき選択は、学生身分を保持したまま、職場で修行させてもらう。いわゆるインターンである。これは一定期間が必要である。ホワイトについては最近、インターンが出てきたが、それでも短期間で実用に役立たないという意見もある。といっても、類似の制度は明治からずっと工業高校などで存在していたともいえる。歴史をやっている人間ならば、鉱山研究の良質な資料が実習報告書であることは常識だ。

たとえば、美容学校は専門学校(職業訓練学校)である。これは資格と結びついているから、みんな通らなければならない。私が以前、行った美容院の親父さんは、腕が良いし、実際講演などにも出かけている人だったが、美容学校は技術習得に必要かと聞いたところ、まったく必要ないと明確に答えた。そのときもさもありなんという気もしたが、その具体的なイメージはいつも通っている床屋のマスターの話しの中にあった。彼は実際に免許を取って床屋で働きながら、技術を磨く目的で美容学校を卒業している。彼は、学校の先生は試験に受かる用の技術は持っているが、それは店で実用される種類の技術とは別であり、ありていにいえば役立たないと話してくれた。だから、自分はよく実技をやらさせられたといいながら、現場でやっている自分のような人間を教師は扱いづらかったと思う、とのことだった。この場合、必要なのは企業に雇用されることではない。個人事業主のところでもよいから、髪を切るという現場に立つことである。そして、問題はその多くの現場が企業の仕事の中に埋め込まれているということなのだ。

念のために言っておくと、私は大学の専門学校化(ないし職業学校化)には反対だが、職業訓練(およびその学校)の必要を否定するつもりはまったくない。学校と現場(多くの場合企業)で学べることとそうでないことを、もっと意識して分けて、考えるべきだというに過ぎない。

次に進むべき点は、制度の費用対効果をはっきりさせて、どこが費用を負担するかだ。訓練が直接的に企業の生産性の向上に結び付いて考えられる限り、それはご勝手にやってくださいということで済むのだろうが、社会的な文脈から、企業に教育機能をお任せします、というのであれば、企業だからという理由で助成金を出さない理由はない。ただし、それは雇用維持してください、というのとは理論的には別次元の話であることに注意されたい。

何れにせよ、この話はメンバーシップ型とか、ジョブ型とかで割り切れる問題ではない。ジョブ型というのはおそらくクラフト型を想定しているのだろうが、それが成立するには職業訓練学校の存在よりも、技能形成の場である仕事の機会をコントロールできる業界団体が必要である。近代のように企業内にOJTの機会が埋め込まれているときにクラフト型といったって時代錯誤である。いうまでもなくドイツは前近代からそういうシステムを引き継いでいるのだ。もちろん、日本だって業界団体はあるし、力もある。たとえば、鉄鋼連盟。しかし、参加するためには鉄鋼会社の身分が必要である。日本でそうじゃないタイプの典型例は大工さんだろうか。大工さんは世界最大のクラフトユニオンを持っている。

ここまで読んで、内部労働市場=企業=メンバーシップ型などと考えていたら、おそらくその人はドリンジャー、ピオリを理解していないのだろう。理論的に考えれば、ジョブ型もまた、クラフトタイプの内部労働市場なのである。そのことを踏まえてリアルな労働市場を描く必要がある。ありていに言えば、職業訓練学校を有効に機能させるためには、企業も市場参加者に含めたクラフトタイプの内部労働市場をちゃんと構築して、その中に自らの立場をフィットさせなければならないのだ。

そして、ここから本当は第一の論点、school to workに入っていく必要がある。本格的に労働市場を考えていくということだ。そのためには、経済学の世界でここ30年くらいで発展した情報の経済学の視点も有効だろう。

が、そろそろ、行き詰った鉄鋼の論文に戻るので、息抜きの話題は店じまいにします。
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