議事録がまだ第二回までしか公開されていないので、細かいことは分からないのですが、大体、今のところ、大きな見取り図というか、そういうものは私の中では大枠は分かりました。もちろん、資料を読んでいないので、当ってるかどうか分かりませんし、普通はこんなことやらないのですが、とりあえず、メモなのでご寛容ください。

濱口先生が前に書いてくださった論点は「人間力VS職業的レリバンス」という枠組みで、予告によるとこれが第4回で矢野先生との間に激論(?)を呼ぶそうです。実はこのような枠組みで議論すること自体がそもそも人的資本論に捉われているのではないか、と私は思っており、あまり有効ではないのではないかと感じています。もちろん、たとえば、第二回の資料で久本先生が「なにが就社活用のために大学が学生に習得させるべきものなのか。もちろん、大学教育はそれだけではないが」と述べられているように、参加されている先生方は、そのことを前提としつつもそれを棚上げして、この分科会の趣旨に沿うように、議論されているのです。ただ、この枠組みは非常に複雑な背景が重なっているので、もはや収拾がつかない状態です。

ポレミーク(=論争喚起的)な本田先生の本は、外部の私からの観察によれば、実は教育学界の対立を非常に端的に表しているように思います。ただし、この場合の「人間力派」というのは、ルソーを淵源とする教育哲学をバックグラウンドにもっているんじゃないかと睨んでいます。教育哲学なんだけど、おそらくは教育を敵視するところがある。そういうものはさらに進むと教育=強制という考え方に展開するし、そういう考え方にシンパシーを持つ人はきっとフーコーもお好きでしょう。元々、学校も工場(会社)も嫌い。その本丸にあろうことか、正反対のご本尊の職業を打ち出して挑もうというのですから、本田先生の試みは大変なことなんです。

ただ、この分科会で終始議論されている「人間力」は全然、違います。今度は「職業的レリバンス」を媒介にして、その反対概念として出てきている。この場合、労働に関連するプロであれば、おそらく念頭に置いているのは、汎用スキルと特殊スキルの対立を、「人間力」と「職業的レリバンス(ないし職業能力)」です。ただ、職業能力に該当するはずの特殊スキルなんですが、具体的に何がイメージされているのかといえば、よく分からない。抽象論としては分かりますが。でも、実はこの二つのスキルの対立は古いところでいうと、戦時中に熟練工育成を単能工にするか、複能工(現在の言葉でいうと多能工)にするか、ということで大議論があったんですが、それと似ている。私がJIRRAで発表した論文はそのことを踏まえて書いたけれども、今、読み返すと分かりにくい。この論争は職業訓練史の文脈では決定的に重要なんですが、その話はまた後ほど。

しかし、実際、こういうなんだか分からない議論が一定の説得力を持っているのは次のメカニズムが機能しているからではないかというのが私の見立てです。企業は職業能力を前提とせずに採用していたんだから、学生は職業能力を従来持っていなかった。じゃ、何にもなかったかといえば、何かはあった。それが何か分からないから、とりあえず、職業能力(ないし職業レリバンス)の対立概念として人間力と呼ぼう。この程度の深みでよいならば、十分、これでも話は成立するのです。この点、職業レリバンス(職業的意義)が何より大切!という本田先生の主張は立場としてはこれほど明確なものはない。濱口先生の立場は微妙に分かりにくいんですが、約まるところ、本音は資料1-2の最後の箇所ではないかと思います。

> 企業や学生が教育課程を尊重せざるを得ないような職業的レリバンスのあるものにしていくといっても、現実には極めて困難である以上、どうしても大学教育を妨害するような採用活動を抑止したいのであれば、かつての新規中卒者の採用活動と同様に、新規大卒者の採用と就職を厳重な国家統制のもとに置くしかありませんが、それは新規大卒者をかつての新規中卒者並みに扱うことを意味します。かなりの程度それは実態に即しているように思われますが、「学術の中心」という建前との矛盾は極大化せざるを得ません。

それにしても、濱口さんは国家統制が好きだなあ(笑)。ここをつっ込んでいくと、前の私たちのやりとりをご覧になってくださった方には、ネタになるかもしれませんが、事態はより深刻なので、次のエントリは決定的に重要な問題を扱いたいと思います。多分、いろいろ言っても変わらないと思うけど、とりあえず、大学は危機意識を持たないと困る、といったところでしょうか。

追記1
濱口先生に修正をいただきました。

追記2 稲葉さんのはてブコメント
稲葉さんは本田さんに厳しいなあ。本田さんのハイパー・メリトクラシー論を読み直して、再検証するつもりはないんですが、稲葉さんのご指摘通りですと、このエントリは明らかに買い被り過ぎですね。そして、正直に言うと、私は稲葉さんの指摘が完全に正しいような気がしています。でも、このエントリはこのエントリで残しておきます。
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コメント
いやいや金子さんも結構辛らつだと思いますよ。
この趣旨の批判は仲違い前から(むろんやんわりとではありますが)本田さんに申し上げていたのです。ううむ。
2010/01/20(Wed) 17:55 | URL | いなば | 【編集
ああ・・・

そ、そうですか。

主観的にはやや甘口に近い中辛くらいだと思っていたんですけども・・・。
2010/01/20(Wed) 19:22 | URL | 金子良事 | 【編集
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